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第213話
※ ※ ※
コン、コン____
「入ってもいいぞ……」
小説家らしく和を好む日和叔父さんの部屋の黒い格子戸をノックした後、少ししてから落ち着いた声が聞こえてきた。父さんと喧嘩したせいで涙ぐんでしまっていた僕はぐいっと服の袖で止めどなく溢れてくる涙を拭うと、出来るだけ日和叔父さんに悟られないように無理やり笑顔を浮かべつつ格子戸を開ける。
「どうしたんだ……日向___何か嫌な事でもあったのか?」
「お、叔父さん……っ……僕___」
てっきり、机に向かいながら大好きな本を読んでいると思い込んでいた日和叔父さんが持っている針を動かしつつ洋裁をしていた手を止めて、僕が何か言った訳でもないのに穏やかな表情を浮かべながら尋ねてきた。
つい、気が緩んでしまった僕___。
先ほど、父さんと喧嘩した事により気落ちしている僕の様子を悟られないように、何としてでも日和叔父さんに隠し通そうとしていたのに__父さんとそっくりな日和叔父さんの顔を見ただけで悲しみが込み上げてくる。
それと同時に、日和叔父さんに隠し事をするのは無駄だと思い直して、僕はポツリポツリと父さんとのいざこざについて告白するのだった。
※ ※ ※
「……なるほど、そんな事があったのか。でもな、日向___ひとつ覚えておくといい。日陰兄さんにとって……息子はお前だけだ。それを覚えていろ」
「う、うん……ありがとう__日和叔父さん。少しだけスッキリした。ところで、それ__さっきから何を作っているの?」
父さんと喧嘩してしまった経緯を話し終え、少しだけ気が楽になった僕だったけれど、今度は日和叔父さんが滅多にしない裁縫をしている事が気になった。ちらり、と目線をそちらへ向けてみると、どうやら割と手間のかかりそうな物を作っているのが何となく分かる。
「ああ___実は小鈴からある衣装を作ってほしいと頼まれてな。なんでも、都会で流行っている……で、電脳なんとかとかいう……アイドルの衣装らしい。この衣装を着てカサネをメロメロにするんだそうだ――全く、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがないな」
などと呆れたような表情を浮かべ、時たま小さく溜息をつきつつ文句を言いながらも、日和叔父さんは針を持つ手を動かして再び裁縫を行なうのだった。
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