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第217話

◆ ◆ ◆ はっ…………と我にかえって目をパチッと開けた時、僕はあまりの衝撃にその場で呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。 辺りを注意深く見渡すという余裕さえ無かった____。 確実に日和叔父さんが横たわる布団の中に自らも入り、余韻に浸りながら眠りについた記憶があるのに、はっと我にかえった僕の目に飛び込んできたのは田んぼの中にポツンと置かれている【電光掲示板】だ。周りは一面田んぼに囲まれていて、風が吹く度にざわ、ざわと___まるで人々が噂話をしているかのような聞きようによっては不快ともいえる音が僕の耳を刺激する。 まだ薄暗い空にカラスの群れが飛んでおり、ぎゃあ、ぎゃあと喧しく鳴き声をあげている。群れの中には田舎らしく木造の電柱のてっぺんにとまりながら、まるで困惑しきっている僕の様子を面白がっているように__胴と同じ黒くて丸い目で此方をじーっと見下ろしていて、尚更不気味さを抱いてしまう。 と、ふいに__僕は執拗に見下ろしてくるカラスから足元へと視線を落とした。裸足だった。つまり、普段なら外に行く時に必要な靴すら履いていないというのはとても異様な事で、のような異常事態が、どうして起こっているのか全く見当すらつかないという事が子供である僕にとっては途徹もない恐怖でしかないという事だ。 いや、たとえ大人であっても____自分の家で寝ていた筈なのに目が覚めたら外にいて、しかも原因すら見当がつかないというのは多大なる恐怖でしかないのかもしれない。 (と、とにかく早く家に帰らなきゃ……っ……) ザザッ…… ザザザ……ッ…… そう思った所で、ふいに今までうんともすんとも反応が無かった【電光掲示板】の方から一定のリズムでノイズ音が聞こえてきて、ビクッと体を大きく震わせて額から冷や汗を流しつつも僕はおそるおそる画面へと目をやった。 一定のリズムでノイズ音が走っている画面の中で、激しく波打つように歪んでいる【電脳アイドルのヨーコちゃん】がニコリと画面に釘付け状態の僕に向かって微笑みかけてくる。 その微笑みに凄まじい程の安堵感を抱いた僕がゆっくりと画面へと手を伸ばしかけた時___、 キッ、キキーッ…………!! 耳をつんざくような自転車のブレーキ音が聞こえてきて、眉間を潜めつつ顔を【ヨーコちゃん】が映っている画面の方から、人を不快にするには充分な程に甲高いブレーキ音が聞こえてきた背後へと振り向くのだった。

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