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第220話

小見山くんが言う【土橋】という男の人は、教育実習生で__つい最近、うちの学校に来たばかりだ。それに、僕と土橋さんとはそれほど親しいとはいえなかったとはいえ一応は知り合いで、かつて光太郎とのわだかまりが無い時にはよく遊んで貰っていた。 それというのも、土橋さんは光太郎(一応は僕も)の幼なじみである美智瑠くんの実兄__皐月さんの知り合いでもあるのだ。まさか、こんな形で土橋さんと再会するとは思わなかった僕はふと交流会の話し合いに立ち合っている彼と目が合って__思わず目を逸らしてしまった。 何年ぶりに会うばかりでなく、かつて彼と交流していた時とは状況も環境も違うのだ。かつての故郷である【市正家】が支配する村から追い出され、しかも僕は【怪異なるモノ】を引き寄せる体質のせいで厄介者扱いされてしまっているのを土橋さんだって重々承知しきっている筈だ。 「おい____日向。お前は、何か意見はかるか?」 「えっ…………?」 気まずくなった僕を助けてくれるかのような絶妙なタイミングで、自然交流会の司会をしている小見山くんの声がしん、と静まりかえっている教室に響いた。 「____日向くんは、俺達をどうもてなしてくれるのか意見はあるのかな?」 にっこり、と人の良さそうな笑みを浮かべつつ__有無を言わせない強い口調で土橋さんが尋ねてきた。昔から、彼はこういう人で___他人に支配されるよりも他人を支配するタイプだったのを思い出した。だからこそ、美智瑠くんの兄である皐月さんも彼の言いなりだったのだ。 (このまま土橋さんからは逃げられない……とりあえずは何か案を出さなくちゃ……大学生の彼らを歓迎するような……田舎ならではの交流__何か、何か――) 「えっと……たとえばだけど、畑でとれた作物で__協力し合って料理を作るのは……どうですか?あとは、うーんと……川遊びしたり、キャンプファイヤーしたりとか……」 頭をフル回転させて、ようやく適当なアイディアを出した僕は__まさか、その案が採用されるとは思わなくて唖然としてしまう。その時、ちょうどチャイムが鳴って教室内に漂い始めていた気まずい空気が緩和されるのだった。 そして、その後__委員会は無事に終わりを告げた。けれども、その頃にはすっかり空が薄暗くなってしまっていた。 そんな事はお構い無しに、僕は稲が生い茂る田んぼの真ん中にポツンと置かれたモニターに映る【ヨーコちゃん】に会いたいがために一刻も早く学校を出るため背後から話し掛けてきた小見山くんの声をさりげなくスルーして小走りで橙色の夕日に染まる廊下を駆け抜けて玄関へと向かうのだった。

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