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第221話

冬に近づきつつある季節のせいで、日が落ちる時間は早い。そのため、僕は手に持っているペンライト一本のみで真っ暗になってカラス達の鳴き声さえも聞こえないような静寂に包まれている夜道を歩いている。 普段は喧しいくらいに聞こえてくる蛙の大合唱も聞こえてこない。その代わりに聞こえてくるのは、稲が風になびいて擦り合うさわ、さわという音____それに少ししてから、ぼそ、ぼそと話している複数の声だった。 意外な事に何人か、この静寂に包まれている田舎道を歩く人々がいるらしい。ぼそ、ぼそと話す声だけでなく、心もとないライトの光も転々と僕の目に飛び込んでくる。 「……ゆ……うき……きぼ……う……う……わさ__」 やがて、人々に近づくにつれて、すれ違っていく人々は__意味不明な言葉を小声で、しかも皆が同じタイミングで繰り返しつつカタツムリみたいに、ゆっくりな速度で歩いていたのだけど、それよりも僕は不気味さを醸し出している人々が思ったよりも多いという事に気づいて思わずピタリと足を止めて怪訝そうに凝視してしまう。 恐らく数人しかいないのだろう、と勝手に思い込んでしまっていた僕はすれ違うにつれて、人々が何十人もいるという事に気づいた途端にゾッとするような得たいの知れない不気味さに囚われて思わずペンライトを落っことしてしまう。 その拍子に、ライトの光が僅かに闇にまみれて目立つ金色のなにかを映した気がしたのだけれど、僕は【ヨーコちゃん】がいる電光パネルへ向かうという本来の目的を思い出して、慌ててライトを拾いあげると脱兎の如く駆け出してしまうのだった。 ※ ※ ※ 【ヨーコちゃん】は__今日もいない。 パネルにはジジッ……ザザザと音をたてつつノイズが走るのみ__。時々、文字化けした【ユυυ希__希ボοОう……うwÄ Sä……】という文字がちら、ちらとパネルに映し出されるが可愛らしい【ヨーコちゃん】の姿を見る事も__まるで天使のように美しい彼女の声を聞く事も僕にら叶わない。 「……ーコちゃん……ヨーコちゃん……」 彼女の名を囁くだけで、体は熱くなり__ふつ、ふつと沸き上がる衝動が収えきれない僕は周りを一切気にする事なくズボンの上から下半身の膨らみかけている箇所を擦る。それだけでは飽きたらず、今度はシャツを乱暴にまくし上げると__家の中ではなく外だというのに開いている左手で冷たい空気に触れて既に勃起しきった乳首を愛撫し始める。声を出来るだけ抑え、びくびくと体を震わしつつ禁断の愛撫に耽っていた僕だった。 そして、ついに射精してしまう____という寸前にすぐ側からザク、ザクと土を掘っている音が聞こえて慌てて服装を整えると欲求不満状態のまま愛撫を切り上げて音のする方へと吸い込まれるようにしておそるおそる向かって行くのだった。

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