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第222話

※ ※ ※ 「あれ……っ……」 ザク、ザクと一定のリズムで土を掘っている音に近づいていく内に、ペンライトの橙色の光が不規則に点滅し始める。かろうじて、軽く振ったり叩けば完全に消えてしまうという事はなく僕はホッと胸を撫で下ろした。 (でも__いつライトが消えてしまうか分からない……早く、あの音の正体を確かめないと……っ……) と、僕は不安に思いながらもスコップを片手に持って一心不乱に土を掘っている人物の背後でピタリと足を止めた。 「あ、あの……っ__こんな所で、何をしているんですか?」 僕が背後に立って震える声で尋ねても、スコップを持ったまま土を掘り続ける人物は此方に顔さえ振り向いてはくれない。もしかしたら、声が小さ過ぎて聞こえていなかったのかもしれない__と少し歩みを進めてその人物に近づいて至近距離で今度は大きめの声で話そうと口を開く。 「……っ…………!?」 作三さんだった____。 満面の笑みを浮かべて、此方へ振り向いた作三さんは__まるで幼い子供のように無邪気に戸惑いを抱いたせいで言葉を失ってしまった僕に対して左手に握っている何かを見せつけてきたのだ。 「ひ、ひゃ……っ……何でこんな……こんなことを……っ……と、鳥が……っ____」 既に息絶えてぐったりとして微動だにしない【ルリビタキ】という鳥が、満面の笑みを浮かべている作三さんの左手にちょこんと乗っかっていたのだ。【ルリビタキ】は胴体の上半分が瑠璃色、下半分が真っ白で羽の生え際付近の一部分が金色という、とても美しい鳥だ。 幸せの青い鳥とも言われているらしい__。 そんな美しい鳥が残酷にも息絶えてしまっていて、しかも兄のような存在であり見知った作三さんが不可解な行動をしている事に対してショックを受けてしまっている僕は無意識の内にじり、じりと後退りしてしまう。 しかし、 「……げる___あげるき、これ__日向くんに……。本当はお墓を作ってあげようと思ったんやけど……贈り物や」 「い、いらない……っ……」 無理やり、恐怖に怯えきっている僕の手を掴んだ作三さんが口元を歪めながら不気味に微笑みかけてきた。ライトの光で照らされたせいで、尚いっそう不気味さが際立っている。しかも、作三さんはただ単にルリビタキの死骸を僕に握らせて来ようとするだけでなく、ぴったりと肌を密着してきた。ハア、ハアと彼の息遣いが身近に聞こえて全身にぞわーっと鳥肌がたってしまった僕は咄嗟に彼を出来る限りの力で突き飛ばしてしまった。 ガシャ……ッ…… そのせいで、ライトが再び地面に落ちてしまい、先程まではかろうじて光を灯していたライトが完全に消えてしまった。 しかし、そんな事などお構い無しに__【ヨーコちゃん】の事も頭から吹っ飛んでしまうくらいに夢中でおかしな行動をしてきた作三さんから逃げるために暗い夜道を駆けて行くのだった。 方向なんて、この際――どうだっていい。 とにかく、異常な行動をしてきた作三さんから逃げなくちゃ____。

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