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第223話

※ ※ ※ (あれ……っ___ここは……僕の部屋だ――あれから……どうやって帰ってきたんだっけ……) ポツッ……トンッ……トッ…… ザァ……ザザァー…… 窓の外からトタン屋根に打ち付ける雨音が聞こえてくる。昨夜の作三さんとの事を思い出して少し頭痛がするけれど、その他は身体的には特に異常はないみたいだ。 それよりも――今はむしろ、隣にいてギュッと僕の手を握りながら此方を凝視してくる日和叔父さんの事の方が気になってしまう。その事に気づいた途端、僕の心臓はドキドキして飛び出してしまうんじゃないかと思ったくらいだ。 「____日向、大丈夫か?」 「だ……だい___」 大丈夫だよ、と言おうとした途端に思わずポロッと涙が布団へと零れ落ちてしまい、その後で日和叔父さんから体を抱き締められた。叔父さんに抱き締められつつ僕は慌てて涙を拭った。 「お前____雨が降りしきる道に倒れていたそうだな。わざわざ、通りすがりの作三くんが――家までとどけてくれた。日向、いったい何があったんだ?」 「え……」 すると、今度は叔父さんが真剣な顔つきで僕を真っ直ぐに見つめながら尋ねてきた。暫しの間、叔父さんの口から出てきた《作三くん》がおかしな行動をしていたとは言いにくくて言葉を詰まらせてしまった。普段は、他人とあまり関わらない叔父さんが作三さんとは心を許して関わっていたせいもある。 作三さんは、高校生だから年は離れているものの親友ともいえる存在がおかしな行動をしていたと聞いたら――表面では無愛想で冷静さを装っているけれども本当は心優しい叔父さんは傷付いてしまう。 それだけは避けなくちゃ___、と思った僕は気まずいけれど無言を貫いていたら叔父さんはふう、と軽くため息をついた。 「____どうしても言いたくないのなら、言わなくても構わない。ただ、悩みがあるのなら日陰兄さん……いや、私に相談しろ。それと、日向__これを食べてみてくれないか。お前の体調が悪いんじゃないかと思ってこれを作ってみたんだが――時間がかかってしまった」 「叔父さん__これ、僕のためにわざわざ作ってくれたの?」 叔父さんが少し照れくさそうに差し出したのは、少し焦げ目がついているプリンだった。日和叔父さんは慣れている父さんと違って料理するのは苦手だった筈なのに__。 僕は料理が苦手な日和叔父さんが、わざわざ体調を気遣って喉通しのよいプリンを作ってくれたという彼の優しさに感激してしまったせいで今度は嬉し涙を零しつつそれを受け取ると一口食べる。 「ち、ちょっ……叔父さん__これ塩と砂糖を間違ってる……でも、嬉しいし……世界で一番美味しいよ……ありがとう」 「____っ……す、済まない」 そう言った途端に羞恥から顔が茹でダコみたいに赤く染まる叔父さんを見てから、僕は目線を逸らしてしまった叔父さんの隙を見てすかさず彼の柔らかな唇にキスするのだった。 ※ ※ ※ 今日は学校はお休みの日___。 そのため、それから暫らく叔父さんと甘いひとときを過ごしていたのだけれど、それは独特な音を奏でる乱入者によって阻まれてしまう。 『リンゴーン、リン、ゴーン……』 滅多に来ないお客さんが玄関のチャイムを鳴らしてきたのだった。

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