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第224話

※ ※ ※ 「はい____どちらさ……ま……っ……」 「ひなたにい……っ……俺___どうしよう……俺のせいで………」 引き戸を開けた外では今もバケツをひっくり返したかのような雨が降り続いている__にも関わらず、玄関の外には傘もささずにずぶ濡れになっている翔が項垂れつつ立っていた。 ポタ、ポタと滴が垂れるのだけど、それが雨に濡れたせいで落ちたのか、それとも声を震わせつつ嗚咽を漏らしている翔のせいで落ちたのかはあまりに突然の事て戸惑いを浮かべるしか出来ない僕には判断しきれない。 「ど……っ____どうして傘もささずに……っ……ていうか、翔くん……ここまで一人で来たの!?光太郎__いや、クリスさんか……翔くんのお母さんは?」 ぶん、ぶんと左右に頭を振りつつ嗚咽を漏らし続ける翔くんの様子に、これからどうするべきかを必死で考える。 「光ちゃんも……美智瑠も、皐月さんも……俺の親も____信じてくれないんだ……っ……クリスがいなくなったのに……皆、そんな奴は元から存在してないって……皆__俺が変な事を言ってるって思い込んでるんだ……」 「えっ……クリスさんが___存在してないだって……それ、おかしいよ……だって、僕__クリスさんの事よく覚えてるよ?」 無意識のうちに、鳩が豆鉄砲をくらった時のように呆けた表情を浮かべてしまう。翔くんと恋人であるクリスさんが仲睦まじそうに笑い合っていたのを__ふっ、と思い出した。そもそも、外国人であるクリスさんが翔くんや光太郎の村に来て過ごしている事は村人達だって知っている筈だ。だから、翔くんと親友同士である光太郎や美智瑠くんがクリスさんの存在を知らないというのは勿論のこと__村人である翔くんの母親が知らないというのも確かにおかしい。 「と、とりあえず……いつからクリスさんはいなくなったの?」 「お、おととい____。ずっと待ってたけど__帰ってこなくて……っ……こんな事ならいなくなる前日に、喧嘩なんてするんじゃなかった……俺がひどい事言ったせいで……クリスは……」 ひっく、ひっくとしゃくりあげながら泣き続ける翔くん。光太郎や僕よりもやんちゃな彼がここまで取り乱すのは珍しい。 僕はオロオロと慌てふためくしか出来ないけれど、とにかくびしょ濡れだから少し休んでいくのはどうだろうかと提案しかけた時___、 『リンゴーン__リン、ゴーン……』 閉じた玄関の外側から――新たなる来訪者を知らせる呼び鈴の音が響き渡るのだった。

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