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第227話

◆ ◆ ◆ 『クリスって__誰…………?』 やっぱり、何度考えてみても翔くんの、あの態度はおかしい――などと思いつつも日差しがさんさんと照りつける学校の敷地内にある畑で僕はせっせと手を動かしながらジャガイモなどの野菜を掘っていた。 都会の小学生とは違って、【野菜の収穫】の授業がカリキュラムとして組み込まれているため、ある程度は慣れた手付きで行っていた僕だったがジャガイモはともかくとしてサツマイモの収穫は得意ではなかった。 (クラスメイトの皆は都会から来てる大学生のお兄さん達としゃべってばっかり……だいたい、先生も注意くらいすればいいのに……) そんな中、意外にも黙々と野菜を収穫している小見山の様子をチラッと目に入れて少しだけ彼の真面目さに感激しつつ教師から真面目にやれと怒られたくなかった僕は出来うる限りありったけの力を込めて地中深くに埋まっているサツマイモを引っこ抜こうとする。 が、なかなか上手いこと引っこ抜けない____。 汗が額から流れ落ちて、少しだけ休もうとしてた時__真上から影がさした。おそらく、夢月あたりが疲労困憊の僕をからかうために覗き込んでいるのだろう、と何気なしにそちらを見上げた。 しかし、その途端に真上から覗き込んでいる人物は冷たいペットボトルの飲み物を汗だくになっている僕の頬にピトリと当てた。 「ひゃっ……つ、冷た……っ……!!」 「ごめん、ごめん____そんなに驚いちゃったかな?あまり、頑張り過ぎると倒れちゃうかもよ?ほら、これでも飲んで……少し休むといい」 そこには、片手にキンキンに冷えたペットボトルの飲み物を持って空か、はたまた海のように青い瞳を此方に向けつつ愉快そうに笑う見慣れない男の人が立っているのだった。 ◆ ◆ ◆ 「ま、まさか土橋さんのお友達のうちの一人だったなんて……ご、ごめんなさい……僕、その――そうとは知らずに誰ですか、なんて……失礼な事を聞いちゃって……」 「あ~……いいよ、いいよ……おれは彼らとは違って目立ってないしね。少しでも彼らに近付けるようにカラコンを入れてみたけど__やっぱり、彼らとは住む世界が違うみたいなんだ。もしかしたら、君もこんな気持ち――分かるんじゃないかな?」 疲労困憊していた僕を覗き込んでた彼の名前が、【青葉 るり】というのを__共にサツマイモを掘り進めていきつつ会話をしている最中にようやく理解した。 (その気持ち、彼じゃないけれども何となく分かるかもしれない__理想と現実はけっこう違うことも多いし……) 「おーい、何だよ……るり……それに日向くんだったっけか。まだサツマイモ掘りなんてやってたのか。これから、バーベキューするんだからさっさとこっちに来いよ。まったく__トロイ奴だな……るりは__」 「ほらほら、日向くんも__るりなんかと話してないで、こっちに来てオレらと仲良くしようぜ?」 せっかく、るりさんと楽しい話をしていたにも関わらず、その時間は唐突に引き裂かれてしまった。 るりさん以外の土橋さんの他の友達だという大学生の集団によって_____。 くす、くすと嫌らしい笑みを浮かべてくる彼らに肩を抱かれた僕は少し離れた木の影から此方をジーッと覗いてくる土橋さんの姿に気付いた。 何で、翔くんがあんなにも土橋さんを嫌っているのか____何となく分かったような気がした。

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