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第228話

◆ ◆ ◆ その後____、 僕らが汗だくになりながら収穫した野菜と、都会からやってきた大学生のグループが持ってきてくれた肉(しかも高級なもの)を使って行ったバーベキューをして、夏らしくキャンプファイヤーや花火やらをやって、あっという間に夜が更けてきた。 言うのを忘れていたけれど、この都会と田舎との交流会は実は御泊まり会でもあるのだ。 とはいえ、経費が足りないとやらの大人の事情で泊まる場所は僕らが散々勉学をしている学校なのだが、昼間とは違って夜が更けて真っ暗になった学校というのは不気味な雰囲気が漂っている。 しかも、これから交流会の最大のメインともいえる【肝試し】があるのだから尚更だ。 (肝試しか……やっぱり、小見山くんが提案した時にもっと反対すれば良かった……また怖がっているように演技しなくちゃ……) 憂鬱な気分になりながら、同じグループとなむた小見山くん、それによりにもよって一番共に行動したくない土橋さんとその他の大学生メンバーと共に、ゆらめく炎が灯った蝋燭を頼りに踏みしめる度にギシッ__ギシと鳴り響く闇に包まれた廊下を歩いていく。 ちなみに、肝試しは【学校】の一階廊下をスタート地点として、学校の裏に広がる【裏山】とその一帯にひっそりと佇む住職不在の【地蔵寺】、村人達から恐れられている【女鳴蔵】がある廃墟をぐるりと一周して学校の一階廊下へ戻ってくる__というコースだった。 どうせ、以前交流会で肝試しをやった時のように、怖がる演技をして特に何事もなく終わるだろう、と僕は油断してしまっていたのだ。 まさか、肝試し中にあんな事件が起こるなんて予想だにしていなかったのだ。 ◆ ◆ ◆ 裏山についたはいいものの、【怪異なるモノ】存在はおろか、普通の自縛霊や浮遊霊の気配すらしない。 「いえーい、ここで幽霊とか出てきたら__マジでオレら有名人になれちゃうんじゃね?今かも撮る写真とか動画__今度、《あなったー@みーな》にアップしようぜ?」 「ちょっ……それうける!!《あなったー@みーな》にアップするとかって、村のしょっぼい景色をあげて何になるんだよ。まあ、暇人共の視聴者数は稼げるかもしれねえけどよ……なあ、土橋__お前、こんな村から出てきたかったから東京に来たんだろ?」 学校の教師の目が届かなくなった途端に、土橋さん以外の大学生のメンバー達が豹変した。明らかにこの村を馬鹿にしているかのように口角を上げつつ何が楽しいのかヘラヘラと笑いながら山道を歩き続けている。しかも、この村出身である土橋さんや__今もこの村に暮らし続けている僕と小見山くんがいるにも関わらずだ。 小見山くんは明らかに不機嫌そうな顔を浮かべながら、悪口を言い放つ大学生メンバー達に気付かれないように睨み付けているからともかくとして、土橋さんは僅かに眉を潜めているだけのせいで彼が何を考えているのか見当もつかない。 「…………」 土橋さんは何も言わず、なぜかチラッと僕の方を見つめてくる。 しかし、それも一瞬のことで__その後すぐに彼は顔を背けてしまった。口を開きかけたのを見たため、もしかしたら彼は僕に何かを告げたかったのかも知れないけれども、なるべく土橋さんと関わりたくはないためそのまま黙ってしまう。 「ちっ____!!なんだよ、肝試しとか言ってる割には何も撮れてねえじゃねえか。単なる暗闇しか写ってねえぜ!!絶好のオカルトスポットかと思ったのによ……」 「まあ、ドンマイ……ドンマイ!!気にすんなって、ダイ……もしかしたら、これから__おもしろいのが撮れるかもしれねえじゃん?そしたら、オレら一気に有名人になれるよ?」 土橋さんとるりさん以外の大学生メンバー達のうち、ダイと呼ばれた【大井】という男が舌打ちをしながら撮れたての写真を見つめて睨み付けていた。普段からアクセサリー好きなのか、今も首には髑髏を模したネックレスをしていたり鳥(遠目で何の種類かは分からない)を模したイヤリングをしている。そのため、彼が動く度にジャラジャラと音が静寂に包まれる夜の森に響いている。 そんな怒りに支配されているダイを【田中】ことチュウが励ます。男の人なのに、明るい茶色に染めた髪が腰くらいまで伸びている。邪魔だからかもしれないけれど、腰くらいまである髪を巷で人気のアイドル【ヨーコちゃん】のグッズである髪ゴムで一纏めにしていた。チャラチャラしている割にはチュウはオタクであるらしいというのが分かった。 「そうそう、チュウの言うとおり気にすんなっつーの……ダイ。それに、幽霊とかクソ田舎の景色なんかより、よっぽど視聴者数が稼げそうな題材がここにいるじゃねえか……なあ、さっきから黙りこくってる坊や?」 「おいおい、ショウ__おめえ、その子をどうするつもりだよ?また、前みてえな事をするつもりか?まあ、確かに顔は可愛いもんな__ええっと、日向ちゃん……だっけ?」 唐突に僕の肩を抱いてきてベタベタと体を触りまくってくるのは、ダイから口笛まじりに囃し立てられて満足そうな【小川】ことショウと呼ばれた男だった。背後から抱き合うような形で羽交い締めにされて、咄嗟に逃げようとしたものの、三人の中で一番小柄な割には力が強い。まるで、石のようにビクともしないその男の力の強さに僕は途徹もない恐怖を感じてしまう。普段から、筋トレでもしているんじゃないかという男は言い知れぬ恐怖に怯えて固まってしまう僕の様子を見てニヤリと笑う。 口元は笑っているのに、目は笑っていないのがやけに僕の脳裏に焼きついた。 その時、ふいに大学生メンバー達からの方でも、小見山くんや土橋さんの方からでもなく__どこからか強い視線を感じた僕はショウから羽交い締めにされて値踏みするかのように体をまさぐられながらも強烈な視線を感じる方向へおそるおそる目線を動かした。 けれども、僕の不安をよそに、懐中電灯で照らしても人はおろか夏らしく飛び交う虫の姿さえ見えない。 まるで、カラスの体の如き深い暗闇が周りに広がるばかり____。

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