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第229話
「どうしたんだよ、日向ちゃん……つれないね__オレらのことなんて、どうでもいいってか?」
「い、いえ……その__大井さん達は……この視線は気にならないんですか?」
しまった、と思った時には__もう遅かった。
大学生グループだけでなく、すぐ側にいる土橋さんや小見山くんも、どこかから此方へ向けられる謎の視線には気付いていないようで怪訝そうな表情を浮かべながら僕を見つめてきた。
心配と、不審がいりまじった微妙な視線を五人から向けらてしまった僕は謎の視線について彼らに言うべきじゃなかったと深く後悔した。
いちおうは顔馴染みで、幼い頃はどちらかといえば親しい間柄だった土橋さんやクラスメイトで最初の頃よりは仲良くなりつつある小見山くん以外の三人には言わなければ良かったと思った。
「…………」
「…………」
「…………」
しばらく、三人は無言で――しかしながら、ニヤニヤと口元を曲げつつ愉快そうに笑いつつ僕を変なものでも見るかのような嫌な目付きで見つめてきたからだ。確実に、彼ら三人は僕を不審がっている。まるで、この村に越してくる前に一時期住んでいた別の村の支配者である【市正家】の面々のように侮蔑と好奇が混じった表情で見てきて、思わず僕は俯いてしまった。
と、そんな時____、
「おい、そいつをからかうのは……そこまでにしろよ。だいたい、下らないことで騒ぎ過ぎなんだよ」
血気盛んに【ダイ、チュウ、ショウ】こと大学生メンバーをジロリと睨み付け、本能のままに怒りの感情をあらわにしつつ殴りかかろうとした小見山を冷静な様子で制止した土橋さんが低い声で彼らに言い放ったのだ。
しーん、と静まりかえった後に今度はダイの方が土橋さんをジロリと睨み付ける。
「へー、へー……流石は皆の人気者の土橋くんだな。なあ、お前ってさ……そんな風にチヤホヤされて最近調子に乗ってんだろ?本当はさ__ずっと気にくわなかったんだよな……お前のこと。でも、そんなお前でも日向ちゃんに対しては必死になんのな?そういえば、お前らって幼なじみなんだったっけ――あ、いいこと思い着いた。日向ちゃんさ……ここでストリップしてみなよ。いけ好かない土橋の前で。もちろん、逆らったらお友達がどうなるか分かるよね?」
「……っ____!?」
そのダイの言葉を聞いて、僕は真っ青になってしまう。
腕組みをしながら、グループの新たなリーダーだといわんばかりに顎をくいっと動かしつつチュウとショウにある命令をするダイ____。
とはいえ、ダイは声をいっさい出してはいない。
しかし、付き合いがそれなりに長い彼らは愉快げな表情と簡単なジェスチャーで何を命令しているのか汲み取ったらしく、チュウとショウは未だに不貞腐れていて怒りを吐き出せない小見山くんの背後に素早く移動すると力の強いショウが唐突に彼を雨上がりのせいでぬかるんだ泥にまみれた山道に押し倒してしまう。
これには、普段からクラスで威張っている小見山くんも流石に恐怖を感じたらしい。先ほどまでは、土橋さん以外の大学生メンバー達に怒りをあらわにしていたが押し倒されてしまうやいなや途端に顔がひきつり少し涙ぐんでいる。
「大きな声は……出さないでね。オレも、君を傷つけることは、出来ればしたくないから……それに、日向くんに負けず劣らず可愛い君の体を傷つけたくないんだ」
小見山くんの体の上にのしかかり、尚且つ見た目の割には筋肉質で力の強いショウが恐怖に怯える彼の両手を
「ひ……っ……日向……っ____」
「い、今すぐ……小見山くんから離れて下さい……っ……こんなのは――こんなのは……卑怯です」
顔をひきつらせて恐怖をあらわにしたままの小見山くんが僕の名を呼ぶ。それは蚊のなくような小さな声で彼が精一杯ふりしぼり助けを求めているのが分かる。ただ単に、ぬちゃぬちゃした山道に押し倒されてるわけじゃなく、普段からスポーツをして小麦色に焼けている彼の首筋にニヤニヤと笑みを浮かべつつチュウが小型ナイフの刃を突き付けているせいだ。
クラスメイトの、いや__親友である小見山くんのその哀れな様を見て、怒りを我慢しきれなくなった僕はダイへと尋ねる。
しかし____、
「じゃあ、早くストリップしてよ……もちろん、オレら三人と土橋が見てるここで__。小学生男子の裸も《あなったー@みーな》では一部の層にウケがいいんだよ……まあ、ホモでショタコンの変態共だけどな。ほら、んなことどうでもいいから早く脱げよ__可愛い日向ちゃん?」
「ひ……っ…………!?」
ダイが近づいてきて僕の耳をペロリと舐めあげる。
土橋さんはこんな状況にも関わらず、何も言わない。いや、もしかしたら彼らをこれ以上悪い方向に刺激しないように、わざと黙っているのかもしれない。
(た、助けて__日和叔父さん……っ……)
親友の小見山くんを危険な目に合わせたくない一心で震える手で服を順々に脱いでいきつつ、ふいに大好きな日和叔父さんの顔が僕の脳裏に浮かんだ時のことだった。
前方から静寂を引き裂く、女の子の悲鳴が聞こえたのは____。
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