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第231話
◆ ◆ ◆
クラスメイトの《夢美ちゃん》が泣いていた____。
うずくまり、怯えた様子で静まりかえった山道の真ん中で、しくしくと泣いていた____。
土橋さんを覗く大学生たちは、ニヤニヤと笑いながら彼女に近付くけれど《夢美ちゃん》は顔さえも振り向くことなく、ただひたすら泣くばかりで大学生達がスマホで動画を撮るために一斉に画面を自分へと向けられていることにも気付いてないみたいだ。
「おいおい、どうしたんだよ……可愛子ちゃん?」
「____い……のが……」
「はあ?」
「黒いのが……いたの……怖くて、怖くて泣いてたら……おにいちゃんたちと……日向くんが来たの……肝試しの途中なのに、どうしよう……っ____黒いのは……あっちにいるのに……!!」
うずくまり、顔を隠していた《夢美ちゃん》が急に、ばっ__と勢いよく顔をあげて涙で潤む瞳を大学生達へ向ける。そして、その後に黒い闇に包まれ続ける山道のある一点を指差した。
「…………」
「…………」
大学生メンバー達の間に沈黙が流れる。先ほどまで軽口をたたいてはしゃいでいたのが嘘みたいなせいで、思わず僕はちらりと目線を動かした。
「安心しろよ、えーっと……夢美ちゃんだっけ?その黒いの……だかが何なのか、日向ちゃんが確認してきてくれるってさ。なあ、日向ちゃん?俺らの願い__叶えてくれるよなぁ……お友達思いの日向ちゃん……ほら、さっさと行けよ?」
「……っ…………!?」
ダイがニヤニヤしながら、有無をいわさないといわんばかりの険しい顔つきで命令してきた。
本当ならば行きたくなんてなかった僕は反射的に首を横に振ろうとしたが、ふと__いつもは強気な小見山くんが怯えた表情を浮かべて僅かに膝をガクガクと震わせている様に気付いて慌てて首を振ろうとするのを止めた。
よくよく見てみると、チュウとショウに背後から捕らわれている彼の背中にギラギラ光るナイフが突き付けられているのが分かる。そんな異様な状況でもチュウとショウはヘラヘラと笑みを浮かべたまま僕を興味深そうに見つめてきたため、【怪異なるモノ】とは別の意味で恐怖感と不気味さを抱いた僕は急いで《夢美ちゃん》が指差している方角へと進んで行くのだった。
◆ ◆ ◆
懐中電灯の心もとない光だけで、僕は虫の音すら碌に聞こえない静寂に包まれた山道を前へ前へと進んで行く。
そんな時、ふと____懐中電灯の光ではなく蝋燭の炎が灯っている場所を見つけてピタリと足を止める。
(きっと……ここが彼女の言っていた黒いのが見えたっていう場所だ……でも、黒いのなんか僕の目には何も見えない――いったい彼女は何を……っ____)
歪な形をした石が三つ積み重ねられた【祠】がそこにあった。いつの間に、こんな【祠】が出来たのだろう__と得体の知れない不気味さと若干の興味を抱きながら近付いて覗き込むと、【肝試しの撮影場所】と恐怖感を演出させるためにわざと歪んだような形態にした赤い文字で書かれた看板が立てかけてあった。
「あ……っ____!!」
うっかり、それを足で蹴っ飛ばして倒してしまった僕は拾おうと身を屈める。
その直後、僕は《夢美ちゃん》が言っていた黒いものの正体を知ることになるのだった。
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