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第232話

黒いモノの正体____。 それは、黒い泥にまみれた小さな地蔵だった。 そういえば、この【岩之小地蔵】は、かつてはこの村を守ってくれる存在だとされていた。しかし、いつしかその存在も、そんなのは迷信だ、薄気味が悪い――と不快に思った一部の村人から壊された上で泥を塗りたくられ【裏山】に放置されてしまっている__と誰かから聞いたのを思い出した。 その黒いモノを目にした途端____、 ぞわっ――と全身に鳥肌が立ち、凄まじい寒気に襲われてしまう。 それは、今まで見てきた【怪異なるモノ】に対して感じた寒気とは比べ物にならないくらいに異質で、思わず歯をカチカチと鳴らしてしまう。それと同時に、立っていられないくらいの目眩を感じて両腕を交差させつつ体を覆いながら膝から地面にガクッと崩れ落ちてしまった。 「ど、どうしたんだい……日向くん……っ__」 息を切らせつつ、駆け寄ってきた、るりさんの慌てた声が僕の耳に入ってくる。しかし、僕の耳に入ってきたのは、るりさんの焦った声だけじゃなかったのだ。今まで、ついつい忘れてしまっていたけれど――肝試しのグループには、大学生達の一員であり尚且つメンバーでは下に見られている彼も側にいたのだという事を思い出した。 パシャッ____!! スマホのシャッター音が耳に入ってきたのと、ほぼ同時に眩い光が僕とるりと襲う。てっきり、スマホを構えた大学生メンバー(誰かは明確には分からない)は、僕とるりの姿を写真に撮って面白がっていると思い込んだのだけれど、どうやらそうではないらしい。 「なあ、これ……この黒いの__何か変じゃね?つーか、このスマホ……変だぜ……イカれちまってる……急に電源が落ちやがった」 「本当に、ユウレイがいるんじゃね?なあ、それよりさ__そろそろ、次の場所……えーっと、何ていったっけか……ああ、地蔵寺か――其処に行こうぜ。何にもなくて、つまんねぇしよ……スピード上げて肝試しして戻らねえと、学校の奴らに怪しまれるぜ?」 確かに、それは彼らの言う通りで早く肝試しコースを回って皆のいる学校に戻らなければ、下手したら大騒ぎになるかもしれない。 まだ、最初の肝試しコースの【裏庭】しか巡っていないのだから____。 その後、僕らは【裏庭】を後にして四方八方を地蔵に囲まれている廃寺の【地蔵寺】と、最後のコースである曰く付きの廃墟の跡地にぽつんと佇む【女鳴蔵】を巡った。 【裏山】の祠を後にしてからも、ずっと夢美ちゃんは不安げに泣いていたし、そのせいか土橋さんや、るりさんを除いた大学生メンバー達の怒りは募りっぱなしだったし、挙げ句の果てに曰く付きといわれるにも関わらず【地蔵寺】や【女鳴蔵】でも特に変わった事は起こらなかった。 大学生メンバー達もスマホのシャッター音をパシャパシャと鳴らして、それぞれの現場の様子を収めていたのだけれども、何かが写ったりだとか――スマホに異変を感じたりだとかはなかった。 ただ、その間も__僕はじっとりと粘りつくような異様としかいいようのない嫌な視線を感じていた。よく、テレビとかでストーカーと呼ばれる類いの事件があるけれど、その被害者達もこのような不気味なけた経験をしているのだろうかと思うと尚更、全身に鳥肌が立ってしまう。 その粘りつくように執拗な何者かの視線は、肝試しコースを回り終えた後も続いていた。そして、全ての箇所を回り終えて証拠の品も回収し終わったため、僕は「つまらねえ」「絶好の心霊スポットなのに何もねえとかネタになんねえじゃねえか」等と、文句を言いまくっている大学生メンバー《ダイ》、《チュウ》、《ショウ》と土橋さん、るりさん__それに、先程からずっと押し黙っていて顔面蒼白となっているクラスメイトの小見山くんと共に宿泊場所である学校へと戻って行くのだった。 かくして、【裏庭】、【地蔵寺】、【女鳴蔵】を回る肝試しは何事もなく終わった___ ___かのように思えた。 そうじゃないと知ったのは、学校でのお泊まり会が終わった数日後の日曜日のことだ。 顔面蒼白となった土橋さんと、るりさんが家に駆け込んできた。雨も降っていない爽やかな朝だというのに、どうしたのか__と不思議がる僕に土橋さんは呆然としたまま、無表情でこう告げた。 「あいつら……ダイ、チュウ、ショウ__の……黒地蔵があがった……それも、俺らが回った肝試しコースでだ。俺ら、周りの奴らから疑われてる……あいつらわ手にかけたんじゃないかってな……日向、お前にとっても他人事じゃないぞ」 いつもは、明るくリーダー気質の土橋さんから告げられたのは、あまりに突然で――あまりにも残酷な事実だった。

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