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第233話

※ ※ ※ ※ 僕は困惑しつつも、土橋さんとるりさんに連れられてお泊まり会で巡った肝試しコースがある【裏山】に来ていた。 前日まで雨が降っていたせいで、道がべちゃべちゃして足元がぬかるみ、とても歩きにくい。今よりも幼い頃に、かつて住んでいた村から足を運んで弟の光太郎や翔くん、それに美智瑠くんと共によく遊び慣れ親しんだ【裏山】とはいえ、天候不良などの悪条件だと村人でさえ歩くのが困難になる。 三人の黒地蔵(遺体)があがったとはいえ、それぞれ別々の場所で村人達によって発見されたため、とりあえずは一番最初に訪れた【裏山】に来てくれと村の駐在所に務めている警察官(小見山くんのお父さん)から言われたためだった。 「こ、小見山くん……っ____」 「日向、お前まで連れて来られたのかよ!?まさか、こんなことになるなんて……っ……」 普段はリーダー気質で偉そうながらも冷静な小見山くんは、目を真っ赤にさせつつ泣きじゃくっていた。側には、真下を向きつつ顔をしかめた彼のお父さんが息子を庇うようにして頭を撫でている。職務中ゆえに、それくらいしか出来ないのかもしれない。 「日向くん……子供の君には申し訳ないけれど、少し確認したいことと見てもらいたい光景があるんだけど――いいかな?」 黒縁眼鏡をかけた小見山くんのお父さんが、此方へと歩み寄ってきて遠慮がちに僕へ尋ねてくる。その声のトーンが、普段の優しくて穏やかな小見山くんのお父さんとは別人のように低い真剣な響きだったから、思わずビクッと体を震わせてしまった。 「ここにある黒地蔵を……目視して確認してもらいたいんだ。日向くんと、うちの息子が……肝試しをしていた大学生メンバーのうち__ダイと呼ばれていた人物か確認してもらいたいんだよ。あと、少しだけ肝試しの時のお話をさせてもらえないかな?」 小見山くんのお父さんの声のトーンが、普段のものに変わって穏やかになった途端――少しだけ安堵した僕はコクリと頷いた。 でも、まだ心臓はドキドキしていて激しく高鳴っているのが分かる。 (これから、僕はおそらく大井さんの黒子地蔵を……直視しなくちゃいけないんだ……あの時の――クリスさんのを発見した時みたいに……っ__) ぬちゃ、ぬちゃと――滑りけのある道をゆっくりと歩いていく。水分を含んでいるせいで、なかなか足が思うように進んではくれないけれども、ようやく(おそらくはダイの)【黒地蔵】があるという場所までたどり着いた。 おそるおそる、視線を真下へ向けた僕だったけれど、あまりにも無惨な黒地蔵の状態を目の当たりにして、思わず眉をひそめ尚且つ「うっ……」と短い悲鳴を発してしまった。 ぬかるんだ泥にまみれ、人が倒れている。よく見ないと分からないけれども、耳には髑髏のピアスがキラリと輝き、尚且つ__その人の黒子地蔵の周囲にはカラスの羽根が散乱している。右目は凄まじい力で乱暴に抉りとられたのか、残酷にも空洞となっていた。 僕の視覚を刺激するその状態も、目を背けたくなるものだったけれど、それよりも鼻を刺激してくる強烈な匂いの方が気になって悲鳴をあげてしまった。腐敗臭とは違うその匂いは、どこかで嗅いだ覚えのあるものだ。 「日向くん、気が付いたかい?これは、単に泥にまみれた黒地蔵じゃない。カラスに蝕まれ、片目を抉りとられ、挙げ句の果てにタールをかけられた非常に奇怪な黒地蔵だ。君に聞いておきたいことがある……これは、君と私の息子が肝試しをしていたグループの大学生のうちの一人――大井 で間違いないかな?」 「は、はい……間違い――ない……です」 情けないけれど、声がうわずってしまう。 大井こと、ダイの黒地蔵を直に見られないのだから、僕は先程の小見山くんとそう変わらないのだ。 (怪異なるモノを知覚できる僕の方が……小見山くんよりも……こういった奇怪な事態には慣れている筈なのに、大好きな日和叔父さんには遠く及ばないや……) などと、僅かながら自己嫌悪に陥りかけていた時__ダイの黒地蔵を見たくないがために視線を左横に逸らした僕の目にチカチカと光りを放っている何かが飛び込んできたため、嫌な予感がしつつもゆっくりとそちらへと向かって歩いて行くのだった。

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