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第235話
* * *
そして、僕ら一行は小見山くんのお父さんが口にした次なる現場へと来た。
本当は来たくなんてなかったんだけれど、乱暴な小見山くんとは真逆の性格で真面目なだけじゃなくて、とっても優しくて仕事熱心な彼のお父さんの期待を裏切るのはどうしても出来なかった。
小見山くんのお父さん(いちおうは小見山くんも)、僕と父さんが前にいた村からこの村に来た時にとても親切にしてくれた。
それに、小見山くんにしても何だかんだ意地悪な言葉を言いながらも夢月以外の他のクラスメイト達と違って僕らに対して腫れ物を扱うみたいに遠慮の込もった嫌な態度で接してきたりはしなかったからだ。
「よし、ここが被害者の三人の大学生のうちもう一人の黒地蔵が見つかった現場なんだが……確かにお前達はここで肝試しをしたんだな?」
「…………」
小見山くんのお父さんの質問を聞いて、僕らは二人してガタガタと小刻みに震えながら無言で頷いた。
単なる恐怖から震えているわけじゃない。
【肝試し】で訪れた、白無垢姿の女幽霊の泣き声がどこからか聞こえてくるという《女鳴蔵》の中は外と比べて異様に肌寒いのだ。ましてや、今は真冬というわけではないか尚のことだ。
まるで冬の日に誰かから耳元で四六時中、息を吹き替けられているような不気味な感覚で取り敢えずすぐにでもこの現場から逃げたいと思っていた僕は黒地蔵となってしまった者の居場所を探すためにぐるりと辺りを見回してみる。
特に変わったところはないし、噂である《女の幽霊の泣き声がどこからか聞こえてくる》といったこともない。
だけど、何か嫌な予感がする____。
それは、先ほど《裏山》にてダイの奇妙で尚且つ変わり果てた黒地蔵を目の当たりにした時から感じていた【粘つくような視線】が未だに続いているせいもあったからというだけじゃない。
無意識のうちに歯がカチカチ鳴ってしまうくらいの異様な肌寒さと埃にまみれたカビ臭い《女鳴蔵》だというのに微かに甘く懐かしい香りがどこからか漂ってくることに気付いたからだ。
そして、さっき辿ってきた《裏山》とは違ってここには肝心なものがないということに気付いておそるおそる小見山くんのお父さんのいる方へと目線を向ける。
彼も、小見山くんも――僕と違って寒さを感じていない。
それどころか、窓が閉めっぱなしになっているせいで風が入らない《女鳴蔵》にいるため扇子や下敷きをパタパタと上下させつつ涼んでいる有り様だ。
だいいち、彼らの額には玉のような汗が滲み出ている。
つまり、異様なほどの肌寒さを感じているのは――僕、ひとり。
「あ……あの、大学生グループは三人とも黒地蔵になったんですよね?でも、ここには……誰の黒地蔵も……な……い___っ_」
勇気を振り絞りつつ小見山くんのお父さんへ尋ねたのだけれど、それは最後まで言えなかった。
その理由は話している最中で、すぐ近くのどこかから《女の人の泣き声》が聞こえてきたからだった。
それにしては、僅かに野太さも混じっているのと小見山くん達が異様な肌寒さを感じていなかった時と同じように今も何も気にしていないということが引っかかりながらも、おそるおそる《女の人の泣き声》が聞こえてくる方向へと誘われるように歩んで行く。
そこには、埃を被った深めの桐たんすが置かれている。
《女の人の泣き声》も《懐かしさを感じる甘い香り》もそこから放たれていることに気付いた僕は、側で目を丸くしつつ呆然としている小見山くん達の突き刺さるような視線を感じながらゆっくりと桐たんすを開けるのだった。
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