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第237話

* その翌日のこと____。 学校の授業中でも、ダイとチュウの黒地蔵が続けざまに見つかったことが頭にこびりついて碌に集中できず疲れきっていた僕は心身ともにくたくたになりながら帰路についていた。 すると、今は《電脳アイドルヨーコちゃん》が表示されていない電光掲示板から少し離れている《緑子地蔵》がある脇の所に二人のおばさんが立ち話をしているのに気付いた。 《緑子地蔵》とは、水難で亡くなってしまった子供を祀る地蔵であり、その周囲には村人達が供えた玩具やら昔ながらの和菓子やらが置かれている。中でも、すぐに痛みそうなおにぎりが供えられているのが印象的だ。 「こ、こんにちは……」 「あら、日向ちゃん……こんにちは。あなた、昨日は倒れてしまったんだって?気をつけなくちゃダメよ?」 一人のおばさんは、僕が挨拶すると、一度は会話を止めて笑みを浮かべつつ優しく声をかけてくれた。もう一人のおばさんは、怪訝そうな目付きを此方へ向けたものの特に何も言うことはなかった。 しかし、僕がその後で彼女達とすれ違ってからその場から離れた時のことだ。 再び、噂話に花を咲かせる彼女達のいる方から衝撃的な事実が聞こえてきた。 『ねえ、今の子でしょ?ほら、女鳴蔵の黒地蔵を見つけたのって……それで倒れてしまったのね、確か____いやぁね、あの子呪われてるんじゃないかしら。だって、《地蔵寺》で新たに見つかったかったっていう小野とかなんとかいう学生さんとも面識があったのよね……しかも異様なくらいに彼らと仲が良かったみたいだし、何か個人的な恨みでもあったんじゃ……』 『……しっ……滅多なこと言うもんじゃないわよ。でも、まあ……確かにあの子――他の子達とは少し変わった雰囲気があるみたいだし、それにねえ____ほら、市松家の……はみ出し者____』 ひそ、ひそと囁き合う彼女達の毒が僕の心をじわじわと蝕んでゆく。 けれど、そんなのは慣れっこだ。 今までも随分と言われ続けてきた。 もちろん、全く傷つかない訳じゃないけれども、今の僕にとって重要なのは《地蔵寺で見つかったという黒地蔵》のことだ。 僕は、すぐにでも逃げ出したかったけれどジッとこらえつつ彼女達の話題が《地蔵寺で見つかった黒地蔵》という件に移るのを貝のように待ち続けることにした。 村人達は毎日暇を持て余していて、刺激的な非日常を求めているから《地蔵寺で見つかった黒地蔵》の件に対しても表面では『可哀想』などと言いつつも興味津々の筈で再び話題になるというのを、ほぼ確信していたためだった。 空からカラスの鳴き声が聞こえるため、全神経を集中させながら彼女達を観察し続ける。 まるで、ストーカーになったみたいで少し心苦しいのだけれど、小見山くんのお父さんに聞いたとしても、うまくはぐらかされてしまうのは目に見えているから仕方がない。 『ねえ、そういえば例の新しい黒地蔵の話――聞いた?あの廃寺の……ほら、お地蔵さまが四方八方取り囲んでる場所があるじゃない?そこで見つかったらしいのよね。その状況も、普通じゃなかったって……両手両足を縄で縛られた挙げ句に太い木の棒に体をくくりつけられて、しかも両腕には誰かの……というより、この間見つかった前の黒地蔵事件の犠牲者のなくなった筈の片足を大事そうに抱えてたらしいわ……想像すると怖いし、不気味よね』 『じ、じゃあ……その新しい黒地蔵は……うやうやしく手をあわせたお地蔵さんに囲まれてるって状況で発見されたってこと?いやぁね……何だか皮肉じゃないの……しかも、前の事件での犠牲者の片足を手に持たされたなんて……犯人は相当な異常者だわ……もしかして、さっきの……日向って……子……が____』 これ以上、ここにいると危険な気がした僕はなるべく音を立てないように、そこから去って行くと憂鬱な気分になりつつも父さんや日和おじさん――それに、カサネや小鈴が待っているであろう《家》へ向かって歩いて行くのだった。 正直、今はあまり《家》には帰りたくない。 みんなが嫌いな訳じゃないけれど、最近同居することになった【井森くん】や【矢守くん】が苦手なせいだ。

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