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第238話
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いつも――というよりは、突如として同居人となったあの二人が来る前であれば意気揚々と玄関の扉を開けただろう。
けれど、今はそうもいかない____。
父さんも日和おじさんも、どうも僕よりも彼らに気遣って妙に優しく接している気がする。
確かに、何かしらの事情があって大事な家を失ってしまった二人を無下に追い出すのは罪悪感を抱くというのは分かりきってはいるし、僕の気にし過ぎなのかもしれない。
でも、特に日和おじさんが彼ら――しかも特に井森くんに対して構っているのを見ていると胸がギューッと締めつけられて苦しくなる。
かといって、日和おじさんや父さんに直接『もっと僕に構ってほしい』なんて言いにくい。昔からずっと一緒で僕の性格を知り尽くしている父さんならともかく、一時離れていた日和おじさんにそんなワガママな性格を知られるのはどうしても嫌だ。
(僕は日和おじさんのことが大好きで仕方ないけど……おじさんはどうなんだろ……そうだ、元々日和おじさんは父さんのことが――恋愛も込みで好きじゃないか……いや、父さんのことを今は特別に思っていないにしても……昔の父さんみたいな頭の良い子のことを気になっちゃったのかも……井森くんみたいな優等生な子のことが――)
考えているうちに、どんどん気分が滅入ってくる。
なかなか玄関の格子戸を開ける気にならなくて少しの間、立ち尽くしてしまう。
今の【家】にいるだけで、自分がどんどん嫌な子になってじっているような気がする。
昔は、こんなにも些細なことで――ましてや家を失くして困っている同級生達に対してネチネチとした気持ちを抱くような僕じゃなかった。
確かに、親友の夢月や弟の光太郎みたいに人懐っこくて確かれ構わずフレンドリーに話しかけるような朗らかな子供ではなかったけれと、それでも今みたいに嫌らしい感情を誰かに対して抱くことはなかったのに。
日和おじさんにべったりと纏わりつく井森くんに対しての、このモヤモヤをいったいどうやって晴らせばいいのか悩み続け、ふと玄関前からでも見える電光掲示板へと目線を向けてみた。
今の時間は、【ヨーコちゃん】が映し出されてはおらず画面は真っ暗なままだ。ただ、だからといって静寂に包まれている訳じゃない。
電光掲示板に集うカラスの鳴き声が、とても喧しい。
普段なら、というか井森くん達が同居する前であれば「何で電柱じゃなくてヨーコちゃんの電光掲示板に集まってるんだろう」くらいの軽い疑問しか浮かばない僕だったのだろう。
でも、今日はそんなどうでもいいような疑問だけでは済まされない。
真っ暗なままの【ヨーコちゃんの電光掲示板】に集うカラスを見ているうちに、思い出したくもない光景が頭に無理やり浮かんできて、その場にうずくまってしまう。
世界中がぐるぐると遊園地のコーヒーカップみたいに回っているかのような感覚を覚える回転性の目眩と、ズキンズキンと一定のリズムで脈打つ頭痛が襲ってきたせいだ。
すでにこの世にはいない、大学生メンバーのうちのリーダー格だった【ダイ】こと大井の残酷な最期の光景を意図せずに思い出して気分が悪くなる。
「____い、おい……ヒナタちゃん!!」
そのせいで、よけいに家の中に入るのが遅れてしまい、更にはすぐ近くから自分へと呼び掛けている人物がいることに気付くのも遅れてしまうのだった。
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