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第239話

パッと見ただけでは、青い半袖Tシャツに黒の半ズボンを身につけている日和おじさんだと思った。 けれど、僕にもどかしい気持ちを抱かせている本物の日和おじさんはカタツムリみたいに家に込もって滅多に外に出ては来ないし、何よりも甥っ子である僕 のことを《ちゃん付け》でなんて呼んだりしない。 それに、本物の日和おじさんは和服を好んでいるからTシャツに黒い半ズボンを身につけることはほぼ無いに等しい。少なくとも、かなり昔――僕が今よりも幼い時に海水浴に行った水着をはいてたのはぼんやりと覚えているけれど、それだって父さんに誘われて渋々着てたくらいだ。 じゃあ、僕に声をかけてきたのはただ一人しかいない。 「カサネ……僕に、何か用?もしかして、日和おじさんか父さんに言われて、僕にお説教でもしにきたの?こんな遅くまで、寄り道するんじゃないって……?」 「ち……違ぇよ……オレはただ、その……お前が心配で……ヤドリギの日和に言われた訳じゃねえからな。つーか、ヒナタちゃんさ――最近、あいつを避けてるだろ?いったい、何があったんだよ……ヤドリギの日和には話せなくとも、オレには話せるだろ――溜め込むのはよくないぜ?」 その言葉を聞いて、僕はびっくりしてしまった。 まさか、人間じゃなくて【(元)怪異なるモノ】のカサネに僕の気持ちをまんまと見透かされてしまうとは夢にも思わなかったのだ。 とはいうものの、やっぱりそう簡単には自分の気持ちなんて吐き出せない。 それはカサネや日和おじさんが嫌いだからとか、ましてや家を失ってしまった哀れな境遇に見舞われた井森くんや矢守くんのことが嫌いだからといった理由なんかじゃない。 (僕の醜い感情を……誰かに晒したくない____大好きな日和おじさんはもちろんのこと、仲間であるカサネにだって知られたくない……) 「…………」 僕は唇をギュッと噛みしめ、自分の感情を押し殺すために人形のように無言を貫こうとした。 すると、そんな頑なな僕の反応を見るなり何かを言いかけたカサネ。 けれど、すぐに彼は口を閉じて無言のまま背中にしょっているリュックを下ろすと中からある物を取り出して僕へ見せてくる。 「あ~……まあ、そんなに言いたくねえんならいいや。ニンゲンにだって、秘密にしてえことのひとつやふたつ――あるだろうしな。だがな、ヒナタちゃん……モヤモヤを心に溜め込むのは悪いことだ。本来ならヒカゲの奴がやるべきことだろうがアイツは仕事とやらで忙しいだろうからな。きゃっ……ち……ぼーるだっけか?一緒にやらないか?」 「あ……ありがとう。カサネ……僕のこと気にかけてくれて……それと、言えなくてごめん。カサネの期待にそえなくて……ごめんね」 こうして、僕はカサネとキャッチボールをしたのだけれどモヤモヤした気分は多少スッキリしたものの、どうしても得たいのしれない不安が付きまとい続けていた。 キャッチボールをしている最中でも、何処からか感じる粘りつくような気味悪い視線は僕から離れることはなかったからだ。 最近、そのせいか疲労が強い____。 まるで、誰か――いや得たいのしれないナニかから四六時中監視されているような気がして、ぶるりと身を震わせつつカサネと共に家へと入っていった。 * その日の夜のこと____。 妙に生々しく、永遠にも感じられるような悪夢を見ることになるとは夢にも思わず、まるで地蔵を背中に背負っているかのように強烈な疲労感を抱きながら布団へ入るのだった。 *

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