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第245話
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カサネが気付いた時、辺りには見知らぬ光景が広がっていた。
見渡す限りの田園は存在せず、代わりに虹色の泉がいくつもあり、その周辺を真っ黒なカラスの大群ではなく可愛いらしいピンクや水色といったパステルカラー色の鳥が羽ばたいている。
ふと、上へ目線をあげれば単調で真っ白な雲ではなく、これまたパステルカラーのオレンジやら黄色やらに彩られた鮮やかな雲がぷかぷかと浮かんでいる。
カサネは、それを見て明らかに不快感がにじみ出ていて尚且つ怪訝そうな表情を浮かべてしまった。
もし、これが人間の女の子であればパステルカラーに支配された辺りの光景を見て「可愛い!!」とか「綺麗!!」といった良い意味での興味を抱くかもしれない。
しかし、カサネは元々は【怪異なるモノ】だった存在で――今、日向達と共に過ごしている田舎の人間世界には多少慣れつつあれども、この呪場には不快感しか示せなかった。
もしかしたら、人間に近づきつつあるのかもしれないと思った途端に何ともいえないモヤモヤした気持ちになった。
それにしても、この【呪場】は気持ち悪い。
そうカサネが思ったのは、先ほどから纏わりついてくる甘ったるい香りのせいだ。
何処からこの香りは纏わりついてくるのか、と不思議に思いながら誘われるようにして一歩、一歩足を進めていく。
七色の虹のアーチをくぐり抜け、三日月の巨大な船が浮かぶ大きなエメラルド色の池を渡っていった先に赤い三角屋根が目立つ城の前にたどり着いた。
門前には、二等の白馬がいるのが見えた。
それらは、背中から立派な白い羽が生えていて青いたてがみと尾っぽ、それにもう一頭の方は赤いたてがみと尾っぽを持っている。頭頂部には、それぞれ金色と銀色の一本角が生えているのが実に特徴的だと思った。
「ったく……ここは一体どこなんだっつーの――いや、誰の呪場なんだっつーべきか……おい、この気味わりい場所に来た理由は分からねえが、小鈴はここにいるんだろ……早くこのバカみてえに甘ったるい形をしてるふざけた扉を開けやがれ」
カサネは、ハート型で淡いピンク色が目を引く扉を守るようにして佇んでいる二頭の白馬へ向かって言い放つ。
すると____、
突如として、カサネの目の前にフワフワ浮かぶ細くて白い帯が現れ、それは徐々に集まり固まっていくと最終的には巨大なウサギの形となった。
てっきり、目の前にある扉が何らかの変化を起こすと思っていたカサネはただポカンとするしかなかった。
そして、どうしていいのか分からずにそれから暫くは呆然と立ち尽くしてしまうばかり。
すると、【リーン、ゴォォーン……ガァーン、ゴォォーン……】という大きな音が目の前にそびえ立つお城の三角屋根のてっぺんから聞こえてきたため思わずビクッと体を震わせてしまった。
そして、それが合図だといわんばかりに今までは動かなかった雲みたいにフワフワしてる大きなウサギに変化が現れた。フワリ、フワリと軽快なステップで跳ねるように一歩、一歩前に進んでいく。
そして、もう少しでハート型の扉にたどり着くという所でピタリと止まってしまった。
もう、カサネは何が何だか分からなかった。
そもそも、人間じゃなく元【怪異なるモノ】だったカサネは目の前にいるウサギが何なのかさえ定かじゃないのだ。
得たいの知れないモノに対して、従う必要なんてない____と勝手に判断したカサネは背後へ振り向いて、ハート型の扉や雲みたいなウサギとは反対方向へ一歩踏み出そうとした。
その時____、
ぐいっと右側から強い力で何者かによって引き寄せられ、その結果――危機を回避することが出来た。
カサネの身を引き寄せた何者かが、進もうとしていた方へとポイッと何かを投げた途端にライラック色に光り輝く地面から先端が鋭く尖った星型で、尚且つ細長いキャンディレイみたいな槍が勢いよく飛び出してきて、その何かを容赦なくグサッと貫いたのだった。
カサネは人間ではないけれど、流石にその光景を目の当たりにした途端に真っ青になった。もし、あのまま気付かずに進んでいれば自分の身が爪先から脳天まで貫かれていたからだ。
そうなれば、有限の命である人間ではない【元怪異なるモノ】であるカサネといえども、どうなっていたか分からない。
少なくとも、命(存在意義)が失くなることはないが何らかの危害が加わっていたことは単純なカサネであれど想像できる。
「あ……ありがとうな――何者かは分からねえが、助けてくれ……て____」
はた、と思い出したカサネは先ほど自分を強引に引き寄せて結果的に助けてくれた相手へと振り向いた。
流石に、礼を言わなければならないと思いたったためだ。
日向や日和といった人間達と出会い、更に共に暮らしているという、かなり特殊なケースに巻き込まれた今のカサネは【怪異なるモノ】から、かつては忌々しいと思っていた【人間】へと近づきつつあるようだが今はそんな悠長なことを気にしている場合ではない。
「碌な考えもなしに早々に事を終わらせようとするから、こういうアホみたいなことになるんだよ。やっぱり、怪異なるモノって――単純な奴ばっかなんだ。まったく、日向にいはこんな奴らの何が恐ろしいんだか――。人間の方が、よっぽど怖いっていうのに……」
このカラフルな呪場に強制的に来てから、側にいなかった筈の光太郎が、いつの間にか目の前に現れていた。
そして、呆れ果てた表情を浮かべつつ地べたにて腰を抜かしているカサネへと容赦なく言い放ってきたのだった。
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