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第246話

「お、お前いったい今まで、どこにいたんだよ!?急に現れやがって……びっくりしただろうが!!」 「そんなの……今はどうでもいいことでしょ?それより、この呪場に日向にいを救う手掛かりがあるのは明確なんだから、こんな所でムダに時間を過ごすよりも早く中に入れよ」 いつの間にか現れていた光太郎から、つっけんどんに言い放たれなかったらカサネは気付かなかったかもしれない。 今までは閉じていた筈の扉が、いつの間にやら音もなく開いていた。とはいっても、全開になっている訳じゃなく、ほんの少しだけ開いているのだがそれが逆に不気味さを醸し出している。 【……ふふ、うふふ……いらっしゃい――さあ____】 扉の隙間から、可愛らしい少女の声が聞こえてきたためカサネは情けないことに腰を抜かしてしまい尻もちをついてしまった。 しかし、そんなカサネとは裏腹に一切迷うことなく光太郎は少女の声が聞こえてきた扉へ向かってズカズカと歩いていく。 「お、おい……っ____そんなに戸惑いなく歩いて……また、さっきみてえな矢が突き出てきたら……どうすんだ!?」 「あのさぁ……ぼくは、あんたみたいに考えなしじゃないし、この呪場に取り込まれた人間達みたいに愚かなわけじゃないんだよ。それに、小鈴はあっちにいるんだから行かないで突っ立ってるまま無様に【バクミン】に取り込まれてもいいわけ?」 光太郎が己に対して言い放つ様を見て、今までは散々矮小だと思っていた人間の子供らしからぬ強気な態度に面食らって反論する暇もないカサネの手を取り、そのまま共に城の扉へと急ぎ足で進んでいくのだった。 その時、ふわり――と光太郎の方から青臭み さと甘さが入り混じった香りが漂ってきたためカサネは思わず鼻をつまんでしまった。 しかし、それはほんの一瞬のことだったので深くは考えなかったカサネはまるで飼い猫のように光太郎に引き連れられて行くのだった。 ガチャッと重々しい音を放ちながら開いた扉の先に飛び込んできた光景は正に夢みたいな光景だ。 けれど、それは決して人間の男の子である光太郎や、ましてや元は【怪異なる モノ 】だったカサネが頭の中で思い描くような光景ではなかった。 まず、二人を出迎えたのは淡いピンクと淡い紫色が目を引く動くクマなのだけれど、まるで少女漫画やアニメに出てくるマスコット キャラクターみたいにキラキラの目をしているため光太郎の脳裏にはこの呪場が誰の怪異によって作られているのか今のところは明確にではないけれども何となく察してしまう。 (そうか……この呪場は――かつて日向にいが何度か手紙に書いていた……内気なあの子の……ええっと、確か……名前は____) 「…………み……ちゃん……」 ____と、光太郎がボソッと呟いた途端に部屋の奥からカツッとヒールの踵が鳴る音が聞こえてくるのだった。

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