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第247話

カツッ____と、決して不快に思う程は大きい訳じゃない音を耳にした途端にカサネと光太郎は、ほぼ同時にそちらへと振り向いた。 固いヒール音は、彼らの背後から聞こえてきたためだ。 其処には、フリルがついたピンク色のヒラヒラしているドレスを身に纏い、腰くらいまである金色の髪をなびかせ満面の笑みを浮かべている少女が一人立っていたのだ。 その両手には、水色のウサギのぬいぐるみを抱えているのだが先程の笑い声は可愛らしい見た目の金髪碧眼少女が発していた訳ではなく、そのウサギのぬいぐるみの口元から聞こえてきたものだと理解した途端にカサネはあまりの不気味さからその場で固まってしまった。 【お客サンだ、お客サンだ……招かれざるお客サンも……混じっているようダね………どうしよウか、どうするべきカ……ねえ、おひめさマ?】 「…………」 両手に持つキラキラおめめの水色ウサギが少年の声で問いかけてきても、パステルカラーが目を引く淡い紫色のハイヒールをはいている可愛らしい見た目の少女は、口を閉ざしたまま答えない____が、代わりに顔を水色ウサギのぬいぐるみの方に近付けるとボソッと何事かを囁いたように見えた。 だが、少女の声はあまりにも小さくて、カサネ達には届かない。むしろ、本当に少女の口から発しているのかさえ定かじゃないのは、元怪異なるモノであったカサネから見ても、その少女の素振りが日向や日陰といった人間と比べてみても《ニンゲン》らしくなく不自然なものだからだ。 見た目はどう見ても、人間だというのに《ニンゲン》らしさが感じられないと思うのは、どうやら隣で可愛らしい少女を睨み付けている光太郎も同様らしく警戒しているのが分かった。 この、妙な不自然さは何なのだろうか。 まるで、喉に魚の小骨が刺さり――何をしてみてもとれないムズムズするようなこの違和感。 【別に、招かれざるお客さんでも良いんじゃないかしラ……ここは夢のような場所だものネ。それニ、いずれ……私達のお仲間になるのヨ……まあ、そこのお兄さんは――裏切り者のようだけれド……あの御方は寛大だから許してくれるワ。なんていったって、あの御方は空飛ぶお馬さんを従える王子様ですもの」 そんな時だ。 「ねえ、君さ……その気持ち悪いウサギを介してじゃないと話せないわけ?ああ、口が陶器で覆われているお人形さんみたいだから、無理もないね。まあ、ボクは日向にいのクラスメイトのうちの一人が怪異なるモノに憑依されようと、さらに言えばこの悪趣味な呪場に捕らわれようがどうでもいいんだけど早く日向にいを返してくれない?」 お姫様と呼ばれ、口が陶器で覆われている可愛らしい少女は光太郎が遠慮など微塵もなくズケズケと言い放っても、反論すらする素振りも見せずに再び自らが両手に抱くキラキラおめめが特徴的すぎる水色ウサギの耳元にボソッと囁いた。 もはや、そのお姫様と呼ばれた儚げな少女は自分から声など出せないのだから囁いたとは言えないのだが____。 【おヤ、おヤ…………どうすればいいのカだっテ?ユメミ姫は、どうするのガ最善の策だと思うんダい?このままでハ、招かれざルお姫様ニよっテ……愛しノ王子様ヲ奪わレテしまうかもしレないネ。ひとりほっちノお姫様ニ声をかけてくれた……本当ハ心優しい、あの白馬の王子様ニ……】 水色ウサギは不気味に微笑む。 二イッと口の両端を思いきり開いて、白い綿がはみ出てるのもお構い無しだ。 その様を見て、側にいる光太郎は殊更に不快感をあらわにして水色ウサギを睨み付ける。 そして、伏し目がちの儚げなお姫様に向けてこう言ったのだ。 「ユメミちゃん……いや、違うな。只野 美波ちゃん……君はいつまで、現実から目を背けて《怪異なるモノ》が支配する下らない呪場の囚われているつもり?お人好しな日向にいはね、夢見がちでクラスメイトからですら存在を忘れられている君のこと……心から心配してたよ。直接的には関係ない、弟のボクにまで毎回のように手紙で相談するくらいにはね――そんな日向にいを巻き込んで君はいつまで偽物の夢を追い掛けてるつもり?」 すると、今までこの状況から逃れるように俯いていたばかりの【お姫様に憧れるユメミちゃん】がピクッと反応して今度は責める光太郎を睨み付けてくるのだった。

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