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第249話

「臆病で空想に耽るばかりのキミは、この事件に関する黒幕なんかじゃない。それはつまり、キミを操ってる奴がいるということだ。そして、それは……ボクと日向にいとの訳ありな関係や過去をよくする奴――となると、おのずとしぼられてくる。夢月の奴が、そんなことをする訳がない……とはいえ、日向にいのクラスメイト達もそんなことをするとは思えないし、それをする意味さえない。唯一この件に巻き込まれたとすれば一人だけ……えっと、そこのドブ沼みたいな腐った噴水に捕らえられてるのは……日向にいの新しい友人だっけ?」 早送りしたテープみたいにスラスラと独り言を呟く光太郎を訝しげに見つめていたカサネだったが、ふとチョコレートのような甘い香りが漂ってくる噴水の方へと目線を戻してみた。 「……す……け____て……く……れ」 すると、コポッ――ゴポという泡の音に混じって人の声が聞こえてきたのだ。それは、蚊の鳴くような極めて小さな音であり耳をよく澄ませてみなければ聞こえてこないような救いを求める声であり、しかもよく聞いてみるとその声に聞き覚えがあった。 「こ、小見山……っ____!?」 カサネは以前に日向達と一緒に海水浴へ行ったことのある、彼のクラスメイトとやらの姿を目の当たりにしたため、思わず動揺してしまい変な声を出してしまった。 まさか、このような呪場で再び小見山と会うことになるとは夢にも思わなかったのだ。 【やめテッ……ワタシの王子様ヲ――そんな風に呼ぶのハ……やめテッ!!】 【彼は____ワタシだけノ王子様なのヨ。アタシの世界ヲ受け入れてくれた……唯一無二の王子様。ほら、チョコレートの泉に入って……彼ハ凄く嬉しそうにしているワ……ねえ、今のワタシとかつて同じ存在だった――あなたなら分かるでしょ?】 ついさっきまでは、光太郎の容赦ない毒舌に追い詰められて顔色が悪くなっていた【ユメミ】だったが、突如としてビー玉のように真ん丸い水色の瞳で見つめられたためカサネはビクッと体を震わせてしまった。 この呪場に来たばかりの時は、【ユメミ】から眼中にない存在として扱われていたにも関わらず、突然に同意を求められてしまったためだった。 二つの青い瞳で見つめられた瞬間、カサネは自分の意思では体を動かすことが碌に出来なくなり、日向の家のグランドピアノの上に置かれている西洋のドレスを身に纏う操り人形さながら目を無理やり小見山の方へと向けさせられてしまうのだった。

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