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第251話

「やっぱり、あなたがこの事件の黒幕なんだ。あの三人の大学生を《あなったー@みーな》とかいう電脳空間を模倣した呪場に閉じ込めて始末してたんだ……そして、日向にいまで巻き込んだ。だとすれば、ここは相応しくないよ。だって、ここはしょせんユメミという、あなたにとっては他の怪異なるモノの呪場でしかないんだからね。正々堂々戦うには自らの呪場で戦わなきゃフェアじゃないよね?」 物怖じすることもなく、まるで全てを見透かしていたといわんばかりに光太郎は堂々とした態度で目の前にいる微動だにしない【ルリビタキ】へと言い放つ。 「日向にいから手紙で色々教えて貰ってたんだ。もちろん、三人を始末したっていう確証なんてなかったから今まで黙ってたんだけど……あなたは、あの三人から随分と馬鹿にされていたし始末する動機は充分にあった。そして何よりも、今ここに来たことが犯人だという証拠。全てを終わりにしたいんだよね?だったら____」 子供らしからぬ饒舌な光太郎に対して焦りか、はたまた怒りや苛立ちを覚えたのかは分からない。 しかし、目の前にいる【ルリビタキ】は、ある行動を起こす。 【ち、ちちっ……ちがう……ちがうよ――この怪異の黒幕は、ぼくなんかじゃない……ちちち、ちちっ……ぼくの呪場?そんなものは、存在しない……ぼくは……ぼくは空っぽだ】 両方の羽根を上下にはためかせながら、まるで聖歌隊の少年さながら清らかな声色で、子供とはいえ現実主義かつ冷静であり一匹狼タイプの光太郎へと語りかける。 その時、ふいに【ルリビタキ】の美しい青い羽根が光太郎の両肩へふわりと落ちてきた。 そして、その直後――ついさっきまでは確かに単なる鳥の羽根の姿形をしていた筈のそれは見る見るうちにその様を変化させていき、やがて人の手にそっくりな形となる。その色は、まるで血を抜かれてしまったかのように真っ青だ。 更にいくら冷静で警戒心を忘れていなかったとはいえ、流石にそこまでは気を配ることのできなかった光太郎の首を徐々に――しかしながら確実に締めあげてゆく。 【どんなに冷静さを装おっていても……心は誤魔化せない……っ____お前みたいなガキには尚更だ。離れて暮らす兄さんとうまくいっていないんだろう?強がっていても本当は弱い自分を受け入れてくれる友達が欲しくて欲しくて堪らない……っ……分かる、分かるさ!!だって、ボクも……お前と同じだからな……】 「……っ……るさい……うるさいっ……!!」 今まで決して取り乱すことのなかった光太郎の目に大粒の涙が浮かび、ぼたぼたと零れ落ちていく。それは首を締め上げられていく息苦しさからくるものというよりも、自分の隠してきた本心を指摘されたことによる悲しみのように《カサネ》は思えた。 【なるほど、お前は初恋の相手にまで見捨てられたのか。翔くん、翔くんって……お前の心は悲しげに泣いている……翔くんは弱い自分より……余所者のクリスさんを選んだ――僕はひとりぼっちって泣いている……安心するといい――あの御方の計らいのおかげで、ボクらは救われる。悲しみ、不安、恐怖――嫉妬、そういったおぞましい思いをこれからする必要はないんだ。ボクの刹那の口づけさえ受け入れれば……】 ふと、今まで光太郎を締め上げていた【青白い両手】の力が急に弱まる。 しかしながら、その直後――【ルリビタキ】は軽やかに飛び上がると、そのまま酸素を求め苦しげに息をする彼の肩へ、ふわりと停まる。 そして、小さな小さな嘴を光太郎の唇へと徐々に近づけてゆくのだった。

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