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第254話

ざくっ、ざく____と家から持ってきたシャベルを動かしながら光太郎は土を掘り返し続けていく。 時折、疲れてしまったせいか光太郎は険しい表情を浮かべつつ手を止めて木の幹に背中休んだため、その代わりに今までシャベルなど見たことも手にしたこともないはずのカサネが見よう見まねで光太郎の動きを真似しながら無我夢中で土を掘っていく。 すると、そんなことを何度か繰り返した後に――ふいに光太郎がシャベルを動かす手を止めて、それを脇に置くとそのまま穴を覗き込むべく身を屈めてから、大きくため息をついた。 そして、こう呟くのだ____。 「あーあ……まだ、ここにあったんだ。てっきり動物かなんかに掘り返されて___どっかにいっちゃったかと思ってたのに。あの時の、ぼくに対する皮肉だよ……まったく____」 いつもの生意気な態度を微塵も感じさせないような、その光太郎の様子と意味深な呟きの内容に対して、先程よりも更に訝しさを強めたカサネは無言のまま、身を屈めると同様に穴の中を覗き込む。 穴の中に、小さな何かが埋まっているのが見える。 上から土が所々被さっていて、明確には見えていないため、カサネは手を伸ばして埋まっている正体不明のものを拾い上げようとした。 「駄目だ……っ____それに触らないで!!」 すると、カサネがそれを拾い上げる前に慌てた様子で傍らにいた光太郎が凄まじい剣幕をあらわにしつつ、サッと勢いよく土の中に埋まっていた物を拾い上げた。 「これは、とても危険なんだから。今は【怪異なるモノ】としての能力を失いつつある、あんたが触ったりしたら……大変なことになる。あんたには分からなくたって……ぼくには分かる」 「な……何なんだよ……っ____こんな丸いだけで意味の分からねえもんに、いったいどんな危険があるって!?もったいぶってねえで、とっとと言えってんだよ!!光太郎、お前は何を怖がってんだ?分かるわけねえだろうが……っ____お前が言う勇気を出しきっていねえんだから……分かりようがねえだろ!!そんなに、オレらは信用できねえのか……オレらが、元は怪異なるモノのせいか!?」 デリケートの《デ》の字もない単純な考え方をするカサネは、唐突に相手から怒鳴られ目を丸くしながら驚きをあらわにしている光太郎の両肩を無遠慮に掴みつつ、辺り一面に響き渡る程の大声で言い放つ。 「違うっ……それは、違う。でも、ぼくが……小さな頃は幼なじみだった作にいとの思い出と、それに関するある秘密を誰かに言う勇気がなくて、今まで逃げてきたのは本当だ。ぼくがこの村から出たのも、今までは怪異なるモノを引き寄せて厄介事に巻き込まれる日向にいの存在を言い訳にしてきたけど、本当はぼくが原因なのかもしれない。そして、今の怪異を作った原因となったのは……きっと――いや、絶対に――ぼくのせいだ。ぼくが、あの時に怖くて、この沼から逃げたから……それに、この村からも逃げたから____」 カサネに叱咤され、今まで本来なら打ち明けるべきだった秘密をひたすらに内に隠して閉じ込めてきた自分の情けなさを痛感したけれど、本能的に溢れてきそうになる大粒の涙を流してしまうのを、口をへの字にしつつも必死で食い縛り何とか耐えきる。 そして、カサネと小鈴に見守られながら光太郎は所々言葉を詰まらせ、かつて日向と共にこの村で暮らしていた思い出の――しかしながらずっと胸に秘めてきた幼馴染みの一人だった作三に関する《ある事実》を、ようやく告白し始めるのだった。

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