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第257話

* * * そして、光太郎による過去の思い出話は終わり――場面は現在の【金魚沼】へと戻される。 「ごちゃごちゃと長い話で訳が分からねえけど、要するに、この丸いもんを何とかして壊せばいいっつー話だろ!?それはそうとして、光太郎……てめえは何でそんな辛気くせえ面をしてたんだ?」 カサネらしい単純な言葉を聞いた光太郎は、少しだけ胸をつかえがとれたような気がして、思わず口元を引き上げ笑みを浮かべた。 「カサネさん……小鈴が思うに、そんなに軽々しいものじゃないと思うのです。たとえ光太郎さんがこれを何事もなく壊したとしても……この丸いものの中に封じ込められている怪異の断片が何としても光太郎さんを、この深い沼に引き摺り込もうとする____そんな嫌な気がして、ならないんです」 しかし、カサネの隣にいる日本人形のような見た目をした小鈴は単純かつ、どちらかといえば楽天的な考え方をする彼とは違って随分と用心深く冷静な考え方をする。 まるで、くっつけると互いに反発し合う磁石のようだと光太郎は思った。 そして、カサネの楽天的ともとれる言葉に救われる反面で、小鈴の言うことも最もだと思考を改め直すと、視線を落として、かつて【収穫者】へ返しそびれていたヒーローを模した玩具をじっと見つめてみた。 (これを壊す……もう、そう決めたんだ――小鈴の気持ちはありがたいけど……昔のように逃げてばかりじゃ日向にいは救えはしない……ただ 問題は____) 「____これを、どうやって壊すか…………って…………ご、ごめんなさいです……っ……!!小鈴は余計なことを言ってしまったのです……もう、とっくに光太郎さんはどうするのか決めていたっていうのに……です……」 何故かは分からないけれども小鈴はこっちが怒っているせいで、カサネがいうところの《辛気くさい顔》をしていると思い込んでしまったらしい。 けれど、それは全くの誤解だ。 そういう意味合いを伝えるために、光太郎は小鈴の滑らかで美しい髪がなびいている頭を少し遠慮がちに撫でる。 すると小鈴の頬が、ほんのりと赤く染まった。彼の側にいるカサネは何故だか、どことなく不満げにそっぽを向いてしまう。 そのあとで、光太郎はまずヒーロー物の玩具が入っているカプセルを開けてみようとしたのだが、半ば予想していたことだがすんなりと蓋が開かない。 上と下の蓋が、まるで学校の理科の授業で学んだばかりの【磁石】の仕組みのように、N極とS極が互いに引かれ合いくっついてしまったみたいにビクともしない。もちろん、これを埋める時に強力な接着剤で蓋同士をくっつけてしまった訳でもない。 (それって、つまりは単純な正攻法じゃ駄目ってことかな……だったら____) おそらく、事件を引き起こすきっかけとなった、この《数年前のガチャポンのカプセル》自体にも《収穫者》――つまりは作三によって怪異の呪いがかけられてしまっていると即座に察した光太郎はさほど迷うことなく、それを淀みきった灰色と所々緑色を帯びている禍々しい【金魚沼】の水面へと向かって勢いよく投げる。 やがて、ぼこぼこと泡をたてながら怪異となる原因を引き起こすきっかけとなったガチャポンのカプセルは次第に【金魚沼】の濁りきった底へと沈んでいくのだった。

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