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第260話

(な……っ____何で、急に時計の映像なんか……しかも、あんな古ぼけた懐中時計なんて……っ…………) 突如として身に降りかかった光景に対して訳が分からない光太郎だが、とりあえず強引にそれを振り払うかのように、両瞼を押さえる。 そして今起こったことを半ば強引に忘れるべく――【いぎ】へと再び目を向けて、ある疑問をぶつける。 「と……っ……とにかく――まず、お前が何者なのか。ニンゲンでも、ましてや怪異なるモノでもないのであれば、いったいお前の存在は何なのか――それを、教えてくれない?そうでないと、こっちとしても……色々とやりにくいから____」 「ふむ、なるほど……確かに、ニンゲンの子である君の言う通りだ。いや、正確には違うな。ニンゲンと石鬼との間に生まれた石鬼である君――とでも言うべきか。しかし、安心したまえ。この私も、基本的にはニンゲンに危害を及ばさない。けれども、敵意を剥き出しにしてニンゲンに危害を及ぼす怪異なるモノと違って、【中途半端な存在の石鬼】さ。君のような肉体は……とっくの昔に失ってはいるがね」 光太郎の予想に反して【いぎ】は、間髪いれずに――更には大して嫌悪感すら露にせずに、まるで俳優が覚えてきた台詞を披露する時のように、流れるような口調ですらすらと返答する。 しかしながら、光太郎は先程よりも更に困惑してしまう。 どことなく、すっきりとしたように伸びの仕草をしている【いぎ】の口から発せられた《石鬼》という言葉の意味が、まるで理解できないせいだ。 「分からない……全然分からない。石鬼って……いったい何なの!?それが、ボクらと日向にいの身に起きていることと何の関係があるっていうの____それに、何で……おじさんはボクやカサネ達と違って《石鬼》って言葉を聞いても動揺しないわけ?まさか____」 「____ああ、そうだ。光太郎が考えているように……私はずっと前から《石鬼》という存在のことを知っていた。それどころか、この世は人間《ニンゲン》、《怪異なるモノ》、《石鬼》という三つの存在で成り立っていることも知っていた。だが、どうしても日向と光太郎____お前達には言えなかった。特に日向がそれを知ってしまえば危険な目に合いかねないと……ある人が危惧していたからな」 「____ある……人……?」 途端に、胸騒ぎを覚えてしまう光太郎。 日和が口にした《ある人》の正体を知りたいような――知りたくないような複雑な気持ちにかられてしまう。 それというのも、日和が答えを口にする前に――光太郎の頭にある人物の儚い笑顔が自然と浮かんできたからだ。 「ママ____。おじさんが言う、ある人って……ママのことなんだ?」 「ああ、そうだ。美桜さんが石鬼という存在が、この世にいるということは……お前達には話さないで――と、亡くなる前に何度も言っていた。その理由は…………」 と、ここにきて両瞼を閉じて苦悩の表情をあらわにする日和。 端から見ていたカサネや小鈴――そして、もちろん光太郎にもそのことは理解できている。 「あのさ、おじさん……もう今更、遠慮なんかしないでよ。ボクは真実を聞く覚悟はできているし、きっと臆病な日向にいでさえ、真実を隠してほしくないって言うはず。だから、おじさんはこれから何をすべきか分かってるよね?」 「光太郎――実は、お前は……その薄気味悪い猫が言う通り、ニンゲンである兄さんと石鬼である美桜さんとの間に生まれ落ちた存在だ。美桜さんはニンゲンじゃなくて石鬼____」 日和がそこまで説明したところで、ふいに近くから大きな音が聞こえてくる。 カサネが、側のゴミ山にあった何かを思いっきり蹴りあげた音だ。 しかも、眉間にシワを寄せてジロリと日和を睨みつけているのだった。

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