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第262話

『ここ掘れ、ワンワン____』 幼い頃に今は亡き母から何度も読んでもらっていた有名な昔話では、飼い犬がそう言って土を掘ると小判がざくざくと出てきた。 そのシーンを何となく思い出した光太郎は、念のためにと持ってきていたスコップを使って皆と協力して湿った土を掘り続ける。 すると、土の中から古ぼけ色褪せた懐中時計が出てきたのだ。 かなり古い時代のものであるせいか、少し茶色がかった文字盤にはビビが入っており、長い鎖も錆びていて慎重に取り扱わないと、いつちぎれてしまってもおかしくない状態となっている。 「もしかして、これ……そのふざけたネコ野郎が……さっき言ってたやつか?この呪場が存在するキッカケだとか何とか。それにしても何なんだよ、これ……くっせえな。嗅ぎ慣れた、いやぁ~な匂いがプンプンしやがる――ったく……忌々しいぜ」 それを拾い上げたカサネが、わざとらしく顔を遠ざけ、眉をひそめて口をへの字に曲げつつ不快感をあらわにした表情を浮かべながら言い放つと、まるで静電気が放出された時のように突如としてビクッと体を跳ねさせる。 そして、そのままあろうことか少し離れた場所へ動いてしまったのだ。 カサネが、わざとそうしているというよりも人間のように《意思》を持った懐中時計が、手に取ろうとしているカサネが近づく度に離れていっているのではないか、と光太郎が考えついたのは少し経ってからだ。 「____っ……んだよ、これ!?オレが近づく度に……どんどん離れていきやがって!!」 光太郎はまるで人間の子供のように分かりやすすぎる怒りをあらわにしているカサネに対して、呆れた表情を浮かべながらもゆっくりと彼の方へと歩いて行く。 「ちょっと、どいてくれないかな?多分だけど……怪異なるものだった、あんたが近づく度に、それは遠のいていくと思うんだよね。だってさ、見てよ……これ____」 そう言い放つなり、光太郎はオロオロしながらカサネの動向を見守っていた小鈴の細い腕を適度な力で掴むと、そのまま飛んで行った懐中時計の方へと彼の腕を近づかせる。 すると____、 「ひ……っ……ひゃあ____っ……!?」 何とも情けない悲鳴を上げて、勢いよく退いたせいで小鈴は尻もちをついてしまう。どうやら、小鈴の体に何かしらの衝撃が走ったらしく先程よりも更にオロオロしてしまう。 「あ、ええっと……ご、ごめ____」 あまりにも小鈴の反応が大きかったせいで、光太郎は少しばかりバツの悪い表情を浮かべながら小鈴に謝ろうとした。 「おい、いくら何でも小鈴に対する今の行動は酷いだろ。オレが先に懐中時計に触ろうとしてもダメだったのは分かってたたろうが。それに、もしもコイツに今以上に危険なことがあったらどうするつもりだったんだよ?お前、本当に自分のことしか考えてねぇんだな……ったく、兄弟でもヒナタとは大違いだぜ」 しかし、その言葉は不機嫌そうに眉を寄せて此方を見つめてくるカサネによって途中でさえぎられてしまった。 「ああ、そうだよ……あんたが言う通り、僕は日向にいと違って自分のことしか考えてない。今まで僕が村から出て行きたいって我が儘を言ったせいで村人から白い目で見られてきた父さんの気持ちも、村に残されたせいで寂しい思いをしてきた日向にいの気持ちも……僕はずっと見て見ぬ振りをしてきた」 光太郎は、この場にいる他の誰もが手にすることが出来なかった【古ぼけた懐中時計】を、しっかりと手に握りしめつつ両目を閉じて過去の出来事に対して懺悔の言葉を呟きながら今度はそれを首にかける。 そして____、 「だからこそ、僕は皆に罪滅ぼしがしたいんだ……っ____小鈴……だったっけ?絶対に僕が日向にいを救ってみせるから……だから、ここでカサネと一緒に待っててよ。それで、今の無礼な行動をなかったことにしてくれたら……嬉しい____」 「は……はい……っ____赦しますから……コウタロウさん、必ずヒナタさんを助けてください、です。小鈴はコウタロウさんなら……で……っ……できるって……信じてる、です____」 小鈴のたどたどしくも力強い口調の言葉を聞いた直後、光太郎は二人がいるその場から瞬時にして姿が消えてしまうのだった。

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