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第263話
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僕は半端ない息苦しさを感じながら、何とか重い瞼を開けた。
どうやら、未だに【怪異なるモノ】の呪場に捕らわれていて身動きすら碌にできないようだ。
どうにかこうにか、かろうじて動かせる目をさ迷わせ辺りを見渡してみる。
そして、いつの間にかほぼ密閉された容器の中から僕だけが解放されて、横たわった状態で気絶してしまっている間に【怪異なるモノと化した作三さん】の手によって畳の上に寝かせられていたことが理解できた。
部屋中に充満している【土の匂い】が気絶してしまう前よりも明らかに濃くなっているのが分かる。
(ま……っ……まずい____このままじゃ……)
確実に【怪異なるモノ】の呪場の力によって息の根を止められてしまう、と碌に回らなくなってしまった頭の中で理解した。
呼吸しようとしても、何か細長いものが巻き付いていて徐々に此方の首を締め上げる力が強くなってきている。
それに伴って、めまいや吐き気――更に頭痛までもが襲いかかってくるのだ。
めまいや頭痛といった異変も恐ろしいし勿論強烈な苦痛も感じるのだが、それよりも恐ろしいのは《声》すら出せないということだ。
いくら、【怪異なるモノ】に捕らわれていてアリの観察キットのような見た目の訳の分からない土が詰められた容器に閉じ込められられているとはいえ側には親友の夢月がいる。
僕と同じくピンチという点に変わりはないけれども、夢月は僕と違って頭がいいから、多分【怪異なるモノ】を油断させるために気絶しているフリをしているに違いない。
それに、いくら鈍感な僕でも分かっていることもある。
【怪異なるモノ】の狙いは、明らかに僕しかいないということ。
こんなことは本当なら言いたくはないのだけど、既に作三さんのお祖父さんはあの世に行ってしまったということは、ぼんやりと霞んでいる目で見ても理解できる。
(作三さんのお祖父さん……まるで水分がなくなって枯れてしまった牛蒡みたい____でも、いったい何で……っ……)
作三さんのお祖父さんは、孫である彼を目に入れても痛くないくらいに可愛がっていたはずだ。
少なくとも、僕の目には幼い頃から、そう見えていたというのに彼がこんな恐ろしいことをする理由がまるっきり分からないため、今は亡骸と化してしまった《竹造》の方から目を逸らしてしまう。
【日向の坊っちゃんや……悪いっちなぁ。本当であれば他の者____ああ、親友の夢月くんやっけか。邪魔者にならんようなら巻き込みたくなかったんやが……事情が変わりよったけ命奪わんといけんくなったんやき……堪忍な?まあ、亞戯もこの人数で充分や言うとるし……おいが幸せになるためにも仕方ないやんか……なあ、日向の坊っちゃん?こいつの憎たらしい顔を見たくなかったやき……今、最高の気分なんやき堪忍してや?】
あろうことか、作三さんが幼い頃からずっと優しい態度で接してくれていた彼のお祖父さん――《竹造》の微動だにしなくなった頭を足蹴にしつつ冷酷な言葉を投げかける行動に我慢できなくなってしまった僕は精一杯不快感をあらわにしながら睨み付けてしまう。
「どうして……っ……!?あんなにも貴方を可愛がってたお祖父さんに……何でこんな恐ろしいことをしたの……っ____竹造さんはあんなにも作三さんのことを心配していたのに。いつも、いつも気にかけてくれていたのに……っ……」
【何を言うとんのか訳が分からないやき静かにしてくれんかいの?でも、わいやて鬼やないんや。頭がおかしなってしもた日向の坊っちゃんに教えてやるき。ええか、こいつはなずっとおまんらに隠れて――わいをなぶりよったんや。わいが丹精込めて作った品を馬鹿にしよったり……ここをつねったり____色々やられたんやで……理解したか?】
魂の込もってない人形のように表情を微動だにせずに淡々と話しながら、作三さんは僕の方へ右腕を伸ばして裾を捲る。
確かに、腕の所々に何ヵ所かアザがある。
「……っ____」
僕は竹造さんが作三さんに酷いことを日常的に行っていただなんて信じられなかったし、信じたくもなかった。
でも、実際にアザがあるのを目の当たりにしてしまっては、流石に何も言えなくなってしまい黙り込むことしかできない。
【まあ、これからがお楽しみの時間になるんやき、そのまま喧しい口は閉じておくんやな……ほら、よう言うやろ……●人に口なし、ってなぁ……】
今度は僕が作三さんによって畳の床に押し倒され、更には彼の足で右頬を押し付けられたせいで言葉の一部分がうまく聞こえない状況に陥ってしまう。
しかも、そのまま首全体を足で踏まれたせいで先程よりも更に身動きが取れない状態となってしまう。
よく見ると、作三さんは――いつの間にか左手にカボチャを持っている。大きさは割と小ぶりなのだが、一般的にイメージするのとは違って全体が真っ黄色なものなので釘付けになってしまう。
「……っ……ぐ……ぅ……………ううっ……」
しかし、それ以上に僕の首を踏みつける力がどんどんと強くなっていき、半開きとなった口の隙間から悲鳴が漏れてしまう。
このままでは、命が危ないと頭で分かりきってはいる。
どうすることもできない____と、涙で濡れた両目を力なく閉じた直後、突如として凄まじい力で踏みつけられていた首が楽になり、おそるおそる再び目を開けるのだった。
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