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第277話
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あれから、学校に着き普段どおりに退屈な授業を受けていると、ついつい耐え難い程の眠気に襲われてしまう。
だから、教壇に立つ先生の言葉が碌に聞こえてこなかったんだ。
「ねえ、ねえってば……そろそろ起きないと――」
ふと、隣の席の男子から肩をさすられ話しかけられる。未だに夢見心地なのだけれども、何とか覚醒すると声が聞こえた隣の席へ視線を向ける。
「ええ……っ……と______」
(あれ、誰だっけ…………この子____)
顔は互いに向きあっているから、普通であれば、はっきりと誰なのか認識できるはず。
いくら気乗りしない授業の最中に眠気眼とはいえ、流石に今まで長く共に過ごしてきた同級生達の顔を忘れてしまうなんてことにはならない筈だ。
それなのに、まるで度の合わない眼鏡をかけている時みたいに凄まじく、ぼやっとしていて彼の顔にうまく焦点が定まらない。
すると、突然教壇に立って国語の授業をしていた先生が持っていた何か固いものをドンッと勢いよく打ち付ける。
言葉にせずとも腹の底から沸き上がっている怒りを露わにする強烈な音が突然聞こえてきたせいで、僕はビクッと大きく体を震わせてしまった。
どうやら、一人の男子が授業前が始まっているにも関わらずに、机の上に今流行りのアニメのカードを出しっ放しにしていたみたいだ。
それなら、先生が怒っても不思議なことはない。
「大丈夫…………大丈夫、ゆっくりと深呼吸してみるといい。あの先生は不真面目な生徒に対して怒りっぽいだけだし……そんなの、いつものことじゃん」
「う……うん。そうだよね、む___」
と、彼の名前を言おうとしていた所でふいに思い出した。
「む___って何?寝ぼけちゃって、親友の名前すら忘れちゃったか?」
「そ……っ……そんなことないよ。征爾ったら……いつも僕に意地悪するんだから……っ……!!」
(違う………っ……違うよ……)
そんなやり取りを小声でしていたけれど、いつの間にか此方の席近付いてきていることに気が付かなかった。
そのせいで、今度は僕の頭と隣の席の親友の頭に一発ずつ、指導という名の先生の拳が落ちてきてしまう。
「いた………っ……」
涙で一瞬だけ霞む視界____。
「いいか〜、お前達はくれぐれも、こいつらの不真面目な生徒になるんじゃないぞ。むろん、伊集院も含めてだからな」
先生の有難い説教のひと声で、他の同級生達が一斉に笑いだす。伊集院とは、さっきまでカードを出しっ放しにしていた男子のことだ。今は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
つられるように、僕も口角をあげる。
(どうして………笑いたくなんてないのに……っ………)
「いや〜、相変わらず強烈な一発だったな。それよりさ、放課後ちょっとだけ話したいことがあるんだけどいいか?」
「え……っ……う、うん。いいよ__今日なら大丈夫。いつもの集まりもないし……暇だから____あっ……でも一緒には帰れないから、あそこでいいかな?」
何が何だか分かりきっていないまま、時間が過ぎていった。
そして、僕は夕日に照らされた廊下に出ると約束の【あそこ】まで向かって歩いていく。
その途中で立っていられない程の目眩に何度か襲われながら、それでもひたすらに、約束の場所を目指して力が入らない体を引きずりながら這ってでも向かっていくのだった。
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