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第4話

結局、優雅が帰ってきたのは朝だった 何も話したくなくて、スーツに着替える 「昨日はごめん。俺……」 「…………悪いけど、急いでるんだ」 「響。もう出るの?」 「取引先に寄らなきゃいけなくて……」 顔を見たら泣いてしまいそうで、足早に玄関へ向かう グッ 優雅に手首を掴まれた 触れるの……久しぶり…… 「響。今日、仕事遅くなる?」 「…………なんで」 「大事な話があるんだ」 「ご、ごめん。 今日は飲み会があって遅くなる」 大事な話…………? 「………じゃ、明日は?」 「まだ、仕事がどうなるか分かんない。 そろそろ行かなきゃ!」 優雅の手を振り払って家を出た 大事な話って何? 真剣な顔だった ………………別れ話? 聞きたくない………… 怖くてずっと避けてた 『誕生日おめでとう』 言えないまま しばらく朝早く出社して真夜中に帰る 用もないのに会社に泊まった事もあった 金曜日、優雅はいつも仕事終わりが遅い この時間なら…… 夕方にスーツをこっそり取りに来たら、優雅が中から出てきた こんな早い時間に帰ってるなんて…… 「響!今日こそ、時間作って」 「い、嫌だ……」 優雅に腕を掴まれて涙が滲む 「…………響?」 「……っ……」 泣いてるとこなんて見られたくない 「泣いてるの……?」 「……泣い……てない……ぐす……」 友達だった期間も入れると、付き合いは長いけど目の前で泣いたのは初めて 「…………分かってるよ。 他に好きな人が出来たんだろ?」 「え?」 「ずっと……触れてくれない……」 「聞いてくれ。それは……」 「誤魔化すなよ。そんなの優しさじゃない。 お前から別れ話をされるのが怖かった。 もう……どうにもならない事は…… 分かってるんだ」 とめどなく涙が溢れてきた 『捨てないでくれ』 格好悪い本音が喉元まで出かかる 「…………少しだけ待っててくれるか」  優雅は一言だけ言うと行ってしまった 一体どこへ…………? そろそろ外が暗くなってきた まだ帰ってこない ………………怖い 逃げたい …………けど 振られる前に………… 最後位、ちゃんと伝えたい お前が好きだって………… ガチャガチャ 鍵を開ける音……! …………帰ってきた

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