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第5話 友達1号
学校、教室にて。
自分の机に伏せて
「はぁぁぁぁ……」
一段と深いため息。
だって昨日、失恋しちゃったからね。
初恋だったのに、気まぐれでエッチなことされて、告白する前に振られた。
よく考えたら最悪じゃないか、これ。
「みんなー、席につけー。HR始めるぞ」
担任きた。ひげ生えたおじさん。中年?
席ならついてますよー。
もう動く気力もないです。
「どうした羽柴、元気ないな。でもまあ、今日はみんなに転校生を紹介する!入って~」
…転校生?
まだ4月だぞ。
そして、入ってきたのは男。
まわりの男子のテンションはいっきにダウン。
そりゃ、どうせなら可愛い女の子がいいよな。
「山田大志だ、よろしくな!」
わぁ、元気。僕とは正反対だぁ、はは……。
しかも、けっこうカッコいいじゃないか。
こうゆうの、体育会系男子っていうんだよなぁ。
僕は根暗オタク男子だよ(違うけど)。
だめだ、昨日のがショックすぎて病んできた。
ネガティブ思考にしかなれない!
「んじゃー、山田。席は羽柴の後ろな。羽柴ー、いろいろ教えてやれよ」
え、……僕?
「よろしくな!羽柴、だっけ?」
「……うん、よろしくね」
こんな、明らかポジティブな人と一緒にいたら、余計にネガティブになるじゃないか…!
「なあ羽柴ー。次の休憩時間、学校案内してくれよ」
えぇー。このくそ広い学校を?
今は、1人にしてくれ。
「次は…体育だから、無理だよ」
「まじ?なにすんの?」
質問多い……
面倒くさい……
「マラソン」
「俺の得意競技だな!羽柴は苦手そうだよなー。運動神経悪いだろ?」
イラッ。
「そーですよ。どーせ僕は運動音痴のヘタレ眼鏡ですよー」
「なんだー?元気ないなー、お前」
「もー、黙っててよ」
「俺でよければ相談のるぜっ!」
「おせっかいですー」
「こらぁ!そこ2人!!HR中だぞー!」
怒られた……。
「あ、すみませーん!」
「すみませんでした…」
僕のせいじゃないのに!
クラス変わるまでこの席なんて、僕大丈夫かなあ。
お先真っ暗。
はあ……
キーンコーンカーンコーン___
律side
今日は、いつにも増して気分が悪い。
「……」
まあ、原因は明白だが。
昨日の……裕太のことだ。
事の始まりは、こうだ。
昨日は早く帰ろうと思っていたのに、本を返し忘れていたことに気付いて、図書室へ行った。
すると、蓮真と楽しそうに話す裕太を見てしまった。
裕太は人見知りだ。
それなのに、蓮真に笑いかけて、楽しそうに話していた。
それがなんだか、胸の奥にある、黒い感情を沸き立たせて……。
そのあと、裕太に、心にもないことを言ってしまった。
ひどく冷たくしてしまった。
「……」
裕太は今にも泣き出しそうな顔して………
あんな顔、させたくなかった。と、今はものすごい後悔に襲われている最中である。
「……はぁ」
「お、なになに?律がため息なんてめーずらしいね。悩み事かな?」
出た、梶蓮真。
「……お前のせいだ」
お前が裕太にベタベタするから。
「えー?俺なんかしたっけ?あ、それよりさ、あれ見てよ」
蓮真が指さしたのは、校舎外のグラウンド。
今座っている窓際の席からは、よく見渡せる。
「……1年生か」
外で体育。あれは……マラソンだな。
「そそ。で、あれだよ。一番前の、先頭のあれ、羽柴くんじゃない?」
裕太?
裕太が、先頭?
「……なんだあれは」
THE体育会系男子が、裕太をお姫様だっこして走っている。
誰だあの男は。裕太に馴れ馴れしく触って…!
「……嫉妬かな?」
「は?」
「すっごい睨んでたけど」
「……」
嫉妬?俺が、あの男に?
なぜ……。
「意味がわからん」
「あはは~。律はやっぱり駄目だな~」
なんなんだ、こいつは。
蓮真はよく笑っているが、その笑いが、表向けの顔に見えて仕方ない。
……気持ち悪い。
「でもさ、羽柴くんって、意外と可愛い顔してるよね~。男の子なのに」
「……!」
「遠目からだと、眼鏡かけてて地味な男子ー、ぐらいにしか認識されないけど」
「……」
「近くで見ると、顔整ってるし。あれ、眼鏡外したらモテだすね!」
こいつ……。
そんなに近くで裕太を見てたのか。
「……お前、もう裕太に近づくなよ」
「え、なんでなんでー?羽柴くんもさ、俺と会ったら、なんか嬉しそうだろ」
「そんなわけないだろ」
そうだ。
昔から裕太は俺だけにくっついていた。
それは、今だって同じはず。
なのに……。
「……」
窓の外の裕太を見て思う。
裕太がもし、俺から離れてしまったら?
例えば、昨日のことをきっかけに。
俺は、変わらず今のままでいられるだろうか。
裕太side
「っもーー!!降ろせ!バカ!」
僕は今、屈辱的な思いをしている。
「はっはっはー!なーに、俺にまかせろ!」
それはこいつ、山田大志に、お姫様だっこをされていることだ!
事の始まりは、数分前。
グラウンドにて、体育の授業中。
「さーみんな!はりきって体をうごかそーなー!!」
体育教師がはりきっているなか、僕は気持ちが沈んでいくばかりだった。
「……体育なんて、大嫌いだ」
運動神経なんて皆無だし。
外は嫌いだし。太陽がんがん照りつけてるよ。
まだ4月だっていうのに……。
「…暑い」
ちょっと、立ちくらみが……。
「だいじょーぶかぁぁぁ!羽柴!!」
山田大志。
倒れそうになった僕をかろうじて支えてくれた。
「先生!羽柴が具合悪そうなので!」
あぁ、山田って、けっこういいやつかも。
「マラソンは、俺がお姫様だっこしながら走ってもいいですか!?」
前言撤回。やっぱなし。
なんだそれは!
お姫様だっこ!?
「お、元気いいな、山田!よし、許可する」
そんでいいのね!?
僕、体調悪いんだけど…?
「よし、羽柴行くぞーー!!しっかりつかまってろよ!」
「えぇ!!?」
ほんとに走るの!?
山田は僕の体を軽々と抱きかかえ、猛スピードで走り出した。
「わぁぁぁぁぁ!お、おろせぇぇ!」
「はっはっはー!元気になってよかったぞ、羽柴!」
全然元気じゃないってば!!
そして散々マラソンに付き合わされ、しばらくしてようやく解放された。
「…つ、疲れた」
ほぼ叫んでただけだけど。
「いやー、羽柴。お前、超軽いのな。女みたい」
「…うるさい!」
まったく、今日は最悪だ!!
「まあまあ、そんな怒んなよ。友達だろ?」
「え……」
友、達?
山田はそんな僕を見て、首をかしげる。
「ん?違うのか?」
「えっと……。友達になろう、とか言ってないし…」
そう答えた僕を、山田は笑い飛ばした。
……なんとなく、むかつく。
「ははっ……。いいか?羽柴」
「……」
「友達ってのは作るもんじゃねぇ。自然とそうなってる」
「……」
そう…か、僕たちはもう、友達…だったのか。
「……っ」
どうしよう……
「…うん」
こいつ、すっげぇいいやつ!!
「ははっ!やっぱお前おもしれぇっ、くくっ」
イラッ。
あいかわらずイライラするやつ。
だけど。
僕にもやっと、友達ができたよ?
りっちゃん___
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