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第6話 距離
昨日は、初めて友達ができた。
このことを一番に伝えたいと思ったのは、もちろん、りっちゃんだ。
けど__
「本気にならないでね」
そう冷たく言った、りっちゃんの目が、忘れられない。頭から離れない。
移動教室なんかで、たまにりっちゃんを見かける時がある。
だけど、声をかけていいのか分からない。
りっちゃんとの距離感が
「……わからなくなっちゃったな…」
これから…
どうしようかな……
「はーしばくん!」
「……!!」
そんな考え事をしていた頭に、よく知る先輩の声が流れ込んできた。
「か、梶先輩……」
「やっほ~」
あいかわらずだな。この先輩は。
「…脅かさないでくださいよ」
「ごめんごめん」
僕は今、学校の屋上にいる。
ちょうどお昼休みの時間だ。
そして梶先輩は、なぜか僕の隣に座り、顔を覗きこんできた。
「…なんですか?」
そう尋ねると、先輩はいつものように、優しく笑って。
「いやー、羽柴くんってさ、実は可愛い顔してるなって!思ってさ」
可愛い……か。
りっちゃんも、よくそう言ってたな。
「それ、褒めてます?けなしてます?」
冗談混じりにそう言ったのに、先輩は急に焦りだして、必死に弁解をした。
「けなしてないよ!褒めてる褒めてる~♪」
「……ふふっ」
「あ、笑った」
僕が笑ったのが、そんなに不思議なのか、先輩は目を丸くしている。
そして急に、真面目な顔になった。
「…やっぱりさぁ、羽柴くん元気ない?」
「……えっ」
ちょっとびっくり。
「律のことでしょ」
せ、先輩!鋭すぎです!
僕は、なんて答えればいいのか分からなくて、反応に困っていると、先輩は言う。
「俺でよければ相談のるよ?羽柴くんは可愛い、俺の後輩くんだからね」
僕に向けられた、優しい笑顔。
僕…この人の笑顔、好きだな。
「……」
「それに俺、律とは友達だからさ。知りたいこととか、教えてあげられるかも」
本当に……この先輩は、すごいと思う。
先輩はなんていうか……人の本心を引き出すのが、とても上手だ。
相談にのろうか?なんて、山田にも、家族にも言われたけど、相談する気にはなれなかった。
「じゃあ、その…お願いします」
「うん♪もちろん」
でもなぜか
先輩になら話してもいいかも、という不思議な気持ちになったんだ。
そして事のいきさつを先輩に話し___
「……なるほどね~。フラれちゃったのか、羽柴くん」
「……はい」
ああ、話して後悔した。
僕がホモだって、バラすようなものじゃないか。
恥ずかしい……!先輩は、どう思っただろうか……?
「う~ん、健気で可愛らしいなぁ」
「へ?」
健気で可愛らしい?
予想外の返答に、僕はポカンと口を開けた。
キモいとか、言われるかと思ったのに……。
僕は、思いきって尋ねることにした。
「あの……」
「ん?」
「キモく、ないんですか?僕、男なのに…同じ男が好きって……」
先輩は少し考えるような仕草をして、しばらくして口を開いた。
「んー、ちょっとびっくりはしたけど。キモいなんて思わないよ?好きに性別は、関係ないでしょ?」
「……」
良い人………!!
すっごくすごっい良い人だ!
「それにさ~。俺も好きな子いるんだけど、実は男の子なんだよねぇ」
「えっ!」
衝撃の事実。
先輩も、僕と同じ……?
なんか、すごく感動してきた。
「どんな人なんですか?この学校ですか?」
知りたい。先輩の好きな人。
僕も先輩の、力になりたいから。
先輩はニコッと笑って、しょうがないな~、なんて言いながら、話し始めた。
「俺の好きな子はね、男の子なのにすっごく可愛いんだよ」
ほうほう。
「それで、この学校の子。俺よりも年下ね」
へぇ……。
「髪は黒で、ふわふわしてる」
そう言いながら、先輩は僕の髪を撫でた。
僕みたいな髪、なのかな?
僕も髪の色黒だし、癖っ毛だから。
「それに、目は大きいんだ。普段は眼鏡で隠れてるんだけど」
眼鏡かぁ。それに、男の子なのに目が大きいなんて、見てみたいなぁ。
「先輩!名前は!」
そう聞くと、先輩はずいっと身を乗り出してきた。
ち、近い……!
おでことおでこがくっついて、唇は触れそうなほど近い。
「あ、の先輩…顔、近い……」
「俺の好きな子はね、羽柴裕太、っていうの」
「え……?」
羽柴、裕太。僕……?
「先輩それは、どうゆう……」
どうゆうことですか、と聞こうとして、触れあいそうだった唇が重なった。
「……!?」
キ、ス?
先輩が僕に、キス!?
えぇぇぇぇ!?あわわわ、どうしようぉ!?
超パニック。
先輩の唇柔らか……ってなに考えてんだ僕!!
超パニック状態の僕は、キスされた体勢のまま、動けないでいた。
心臓がばっくばくで、頭が真っ白になりそうで、苦しい。
「……せ、先輩!!」
やっとのことで先輩の胸を押しのけ、唇が離れる。
「いきなりなにするんですか!」
「ごめーん、ごめん」
軽っっ!!
先輩は立ちあがり、ドアの方へと歩いていく。
「ま、俺の気持ちは伝えたから。考えといてね♪」
ひらひらと手を振る後ろ姿を、僕はポカンと眺めていた。
「……俺の、気持ち……?」
僕が好きってこと?
「…考えといてね……?」
付き合うか、ってこと??
ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
頭痛い。
でも、つまりはこうゆうことでしょ?
僕→りっちゃんが好き
梶先輩→僕が好き
りっちゃん→不明
完全なる思いの一方通行!!
「……はぁ」
でも、僕は……りっちゃんが好きで……。
どんなに冷たくされても、りっちゃんが好きなのに。
梶先輩からされたキスは、
嫌じゃなかった___
答えが……出ない。
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