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第7話 俺のものだ
律side
「あぁ…」
イライラする。
原因はもちろんあいつ、蓮真だ。
あの野郎、裕太とキスしちゃったとか、俺に自慢してきやがった。
俺は最初、そんなわけないと思っていた。
裕太が俺以外と、なんて考えられなかった。
だけど俺は昨日見てしまった。
学校の廊下で、蓮真が裕太に話しかけ、その裕太が顔を朱に染めているのを。
「……あんなもの見た後じゃ、信じるしかないだろ…」
だが、なぜこんなにもイライラするのだ。
別に、俺と裕太は、恋仲というわけではない。
それに俺だって、裕太をそうゆう目で好きなのかと言われても、よくわからない。
なのに、イライラする。
俺以外の男と仲良くしているのを見ると、胸がひどく熱く、カッとなる。
「わけが、わからない……」
俺はまた、頭を抱えた。
裕太side
学校、教室。
「はあぁぁぁぁぁぁ……」
ふかーいため息。
「どーした羽柴。今日はいつにもまして元気ないなぁ」
「うるさい、山田」
ここ数日、ろくに寝れてないんだよ。
りっちゃんにフラれるし、梶先輩にキスされるしで、頭んなかごっちゃごちゃのスクランブルや。
「なぁ。そんなら、気分転換に、放課後遊びに行こうぜ!」
え…。
「……また今度なー」
「ちぇっ…つまんねーの!」
ごめん山田。今はちょっとな……。
「誘ってくれて、ありがとう……」
ちょっと嬉しかったよ。
「…おう」
こうゆう友達関係って、いいなぁ……と、山田と友達になって思うようになった。
「んじゃお前、放課後は何するんだ?」
「うーん」
放課後かぁ。確かに、気分転換はしたいけど。
図書室。
それが、1番最初に頭に浮かんだ。
りっちゃん……今日いるのかな。
りっちゃんとは、あの図書室の1件以来、話していない。
りっちゃん___
「声が聞きたいなぁ……」
「?」
本当は、会いたいな。
りっちゃんが望むのなら、僕は、ただの幼なじみでいよう。
弟でいよう。
それでもいいから、側にいさせてくれるかな……?
「よし、放課後は図書室へ行こう」
「真面目だなー。俺はそっこう帰ろ」
そのあとも少しだけ、山田と他愛ない話をした。
そして放課後___
僕はチャイムが鳴ってすぐ、図書室へ向かった。
今日、りっちゃんは生徒会の仕事がない。
でも、だからといって、図書室にいるとは限らない。
それでも___
会いたい………!
僕は、思いのままに走り出した。
バンッ!!
図書室のドアを勢いよく開け、叫ぶ。
「りっちゃん!」
しかし返事はなく、誰もいない図書室は静まり返っている。
「はぁ、はぁ……」
息を整えながら、図書室の奥へと足を進めた。
自分の身長より遥かに高く、天井まで続く本棚の間を歩いていく。
やがて開けた場所、デスクスペースに出た。
たくさんの机が並ぶ窓際に、
「……」
先輩がいた。
夕日が先輩を照らして、茶色の髪が、キラキラ輝いている。
「梶、先輩……」
僕は、先輩に歩み寄った。
「……やぁ、羽柴くん」
今日の先輩は、なんだか穏やかだな……。
「あの、先輩…」
迷っている場合じゃない。
伝えなければ。
「……ん?」
僕の出した、答え。
「僕、先輩の気持ちには応えられません」
そう、先輩に告げた。
いや……違う。答えなんて、最初から出てた。
「……」
冷たくされても、報われなくても
「僕は、りっちゃんが好きなんです」
___言ってしまった…。
「そう…」
一瞬先輩の顔が見えなくなった。
「ねぇ羽柴くん」
名前を呼ばれた瞬間、
「…!!」
強く腕を引かれ、先輩の胸に飛び込んでしまった。
そしてそのまま、机の上に押し倒される。
「な、ぁ…せ、先輩…!?」
逃れようとすると、両手首を強くもたれ、机に押し付けられた。
ち、力強っ!!
先輩は見た目、ムッキムキには見えない。
なのに、その手から逃げられない。
「羽柴くん、油断しすぎ。隙がありすぎだよ?」
「……ぁ」
首に先輩の唇が当てられたかと思うと、そこに、チクリと痛みが走った。
「な、にを……」
恐い。
「羽柴くん。俺は、襲おうと思えば、いつでも君を襲えたんだよ?」
先輩、少し焦ってる……?
恐い。嫌だ。
「でも、安心して。乱暴になんてしない」
先輩が僕の耳元で囁く。
「恋人みたいに、優しく抱いてあげるから」
「嫌……!」
ネクタイがほどかれ、僕の両腕を縛った。
シャツのボタンが外されていく。
嫌だ。
りっちゃん以外と、こんな……!
「…やっ!や、めて……先輩…!」
「だーめ」
先輩の舌が、僕の肌を滑っていく。
「ひっ、ぁ…」
誰か助けて……!!
バァンッ!!!
少し向こうの、図書室のドアが、勢いよく開く音がした。
走ってこちらに向かってくるその足音は、なぜか、僕の胸を温かくさせた。
そしてその人物は__
「……律」
「蓮真ぁ!!!」
僕の姿を見て、先輩に殴りかかった。
ごっ、と鈍い音がして、先輩は床に倒れる。
「……ぃってぇ」
そして
「りっちゃ」
「裕太」
りっちゃんは僕の名前を呼んで、強く抱きしめた。
走ってきたのか、心音が上がったりっちゃんの鼓動が聞こえる。
あぁ、
暖かい____
「…なにすんだよ、律」
殴られた頬をさすりながら、先輩が起き上がった。
「律は羽柴くんの恋人でもなんでもねーじゃん。邪魔すんなよ」
先輩、怒ってる……?
聞いたことのない声だ。
「黙れ」
…低い。今までにも、何度かしか聞いたことのない、りっちゃんの低い声。
僕を抱きしめるりっちゃんの手は、少しだけ震えていた。
「裕太に近づくな」
「……」
「裕太は…」
「俺のものだ」
涙が……溢れた。
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