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第8話 繋がれて(前編)

律side 数時間前___ 俺は悩んでいた。 裕太のこと。自分の気持ち。 裕太に抱いている、この気持ちは一体なんなのか……。 「神木君……」 「……」 一体これは…… 「神木君!」 「……!」 一瞬で現実世界へ引き戻された。 「なんだ」 俺に話しかけてきたのは、同じクラスの女子。 名前は……興味ないから忘れた。 「あのね、ちょっと話があるんだけど」 そういえば、蓮真がこいつのこと可愛いとか言ってた気がするが……、裕太のほうが100倍可愛いな。 「話って?」 「ここじゃちょっと……」 クラスメイト女子は、気まずそうに周りを見た。 周りには、休憩時間を満喫しているクラスメイト達。それと、チラチラこちらを見る女子。 はぁ、うっとうしい。 「悪いけど、今考え事してるから」 さっさとどこかへ行ってくれ。 「……!少しでいいの!聞いて…!」 あぁ、うざい。 「じゃあ、ここで話して」 わざわざ場所移動とか、勘弁してよ。 「えっと……その…」 クラスメイト女子は、急に顔を赤らめ、もじもじ、もじもじ。 あー、裕太がそれやったら最高なんだけどな。 「あ、あの!好きです!!」 その声で、クラスがいっきに静まり返った。 「私と…付き合ってもらえま」 「ごめん、無理」 即答だよ、こんなの。 周りからヒソヒソと声が聞こえる。 「あー、由美でも無理だったか」 「そりゃそうでしょ。神木君は羽柴くんしか見えてないよ」 「由美、可哀相……」 うるさいな。聞こえてるって。 俺に告白したクラスメイト女子は、なぜか半泣きだ。 涙を必死にこらえている。 「……俺のどこが、そんなにいいわけ?」 「……!」 試しに聞いてみた。 周りが言っているように、俺は裕太しか見てない。 女子に興味はないし、興味のないものの名前なんて覚えない、冷たい男だと自覚している。 クラスメイト女子は俯いて答えた。 「……優しいところ」 ボソッと、呟くような声だった。 「……は?」 優しい? 今の態度で優しいと思うのか?この女は。 「……神木君てさ、すっごいクールだし、周りには冷たいと思うの」 ……分かってるんじゃないか。 「でもね…、羽柴くんにはすっごく優しくて、羽柴くんを守ろうとしてた神木君が」 「……」 「私にはすごく、かっこよく見えたの……」 俯いていた顔をあげ、彼女は笑った。 傷ついても、泣きそうでも、俯かず笑った彼女を、初めて綺麗だと思った。 「そ、う……」 彼女になら、聞いてもいいかもしれない。 初めて、綺麗だと思った女子だからな。 「あのさ、聞きたいんだけど」 「……なに?」 「誰かのことを思うと胸が熱くなって、その誰かが、他の男といると腹が立つ」 「……」 「これって、どうゆうことか分かるか?」 クラスメイト女子は、目をぱちくりさせた。 彼女だけではなく、周りにいたクラスメイト達も。 「……か、神木君。それって……」 もしかして知ってるのか。 「なに?」 彼女はさっきと同じく、顔を赤らめて、言葉に詰まっている。 「それは、恋……だと思う、けど…」 恋……だと? 「……」 一瞬、理解が追い付かなかった。 「誰かのことを思うと胸が熱くなるのは、その人が大切だから……」 「……」 「その誰かが、他の男の子といると腹が立つのは、その人を取られたくないから……じゃ、ないかな……?」 大切、取られたくない。 確かにどれも当てはまってはいるが……。 「神木君は、その子のこと好き……?」 「ああ」 クラスがざわついた。 「……それなら、それは恋だよ」 彼女は穏やかに笑う。 恋、か。 これが恋……。 「……」 知らなかったな……。 思わず口元へ手をもっていく。 すると、さっきまで泣きそうだった彼女が、クスクスと笑った? 「……なんだ」 「ふふっ、いや。私、その子には到底敵わないなぁ、って思ってたの」 「?」 「神木君、顔真っ赤だよ?」 なっ……! 顔!? 「……いつもクールな神木君を、そんな風にしちゃう子になんて、私は敵う気しないよ」 「……」 まあ、裕太以上に大事なものはないが……。 「神木君、その子に想いは伝えたの?」 「……いや」 想いを伝えるどころか、自覚すらしていなかったのだからな。 「そっか……。とりあえず私はバッサリグッサリふられちゃったけど。神木君も伝えてみたら?すっきりするよ、伝えないよりは」 「そう、だな……」 俺は窓の外に視線を移した。 太陽はもう下がり始め、夕日がこの街を照らす。 真っ赤に染まる夕日を見ていると、心の奥が熱くなった。 この想いを裕太に伝える。そう、心の奥で決心した。 放課後___ 真っ先に裕太の教室へ向かった。 俺が姿を見せるとクラスが騒ぎだした。 しかし、肝心の裕太の姿は見えない。 「……あのー?」 「!」 突然に声をかけられた。 しかもこいつ、この男。この前裕太をお姫さま抱っこして、グラウンドを走ってた男じゃないか……! 「あの、裕太なら図書室っすよ?」 「…!そうか、ありがとう」 案外いいやつなのかもな。 俺は急いで図書室へ向かう。 早く、早く裕太に会いたい。 バァンッ!! 図書室のドアを思いっきり強く開けた。 いるなら、おそらく奥のデスクスペースだろうと思い、そこへ小走りで向かう。 開けたスペースに出て、俺が見たのは、蓮真に机へ押し倒された裕太だった。 裕太は半泣き状態。 シャツは乱れ、ネクタイで両手を縛られている。 一気に、頭に血が昇っていくような感じがした。 「……律」 「蓮真ぁ!!!」 俺は蓮真を殴り飛ばした。 「……ぃってぇ」 蓮真が裕太から離れたところで、すかさず裕太を抱きしめた。 「りっちゃ」 「裕太」 裕太の体は、小刻みに震えていた。 「…なにすんだよ、律」 俺が殴った頬をさすりながら、蓮真は起き上がった。蓮真は俺を睨み付けた。 「律は羽柴くんの恋人でもなんでもねーじゃん。邪魔すんなよ」 確かにそれは正論。だが 「黙れ」 怒りで声が震えた。 恋人だとか、そんなのは関係ない。 もう2度と 「裕太に近づくな」 「……」 裕太がこんなに怯えているのに、なぜ気づかない? 「裕太は俺のものだ」 誰にも渡さない。 「っあー!そーかよ!……ったく、気付くの遅せぇんだよ……」 蓮真はそのまま立ち去った。 ドアが閉まる音がして、ふと裕太を見ると。 「なっ!え!裕太、なんで泣いて…」 混乱した。 俺はまた、裕太を傷付けるようなことをしただろうか……? 「…ぁ、あの、嬉しくて……」 「…え?」 「りっちゃん、来てくれてありがとう……。本当にありがとう……」 「……」 「……すごく恐かった…。りっちゃん以外なんて、嫌だった……!」 「裕太」 ほんとに、この子はもう……。 「んっ……」 俺を、煽るのが上手い……。 裕太に唇を重ねたが、とっさにか、胸を押し退けられてしまう。 「あ、ごめ……りっちゃ……」 「……」 「今のは、ただいきなりでビックリしただけっていうか……嫌とかじゃなくて!」 必死になって、可愛いな。裕太は。 「いいよ」 裕太の耳元で囁く。 「続きは、帰ってから。俺の部屋でシようか……?」 「……!」 学校じゃ、最後まで出来ないしね。 今日は両親いない日で助かった。 明日は土曜だから、久しぶりにお泊まりもできる。 「楽しみだね?裕太」 「……ぁ。う、ん」 裕太は真っ赤になって俯いた。 隠そうとしたって、耳も真っ赤でバレバレなのに。 これを愛おしい、と思うのが、恋をしているということなのだろうか___

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