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「イッ!」 ガリッとした音と共に唇に走った痛みに、千田は顔を上げた。 「…痛いじゃない。」 親指で唇の端を拭えば鮮やかな赤が付く。 射ぬかれそうな視線が自分を見上げていて、その怒りに満ちた瞳にゾクゾクした。 「何の嫌がらせだ、千田」 低い声が自分を呼ぶ。 …ああ、怒っている。 感情を僕に向けてくれている… 指についた自分の血を舐めながら、触れたばかりの薄い唇を見つめた。 目付きの悪さでキツい印象を受けるが、いつも明るくサークル仲間や連れと楽しそうに過ごしている三園。 笑っていることが多いその口が今は結ばれていて。 もっと、名前呼んで欲しいな… 視線も感情も自分に向けられていることに高揚感を覚える。 「…もう一回呼んで?」 「ああ゛?」 「名前、僕の。もう一回呼んでよ。」 ソッと触れたばかりの唇に指を伸ばす。 知らずと微笑んでいる自分の顔が、三園の瞳に映っていた。

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