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見下ろした男の顔は何を考えているのか分からなかった。
ただ、じっと見つめてくるその瞳の直ぐ下…左目の泣き黒子が印象的で。
こんなにマジマジと千田の顔を見ることが無かっただけに、案外整った顔をしていることに今さらながらに気づかされた。
通った鼻筋
シャープな顎のライン
少し垂れた目尻
いつも無口で誰かと親しくする姿を見ることが無かったが、こうして見てみると千田はモテる部類の男のように思えた。
「言えよ、鍵置いてる場所。」
もう一度、視線を逸らさず繰り返す。
ギリッと押さえ付ける手に力を込めれば、千田の眉が僅かに寄った。
「…ないよ」
「は?」
ボソッと呟かれる言葉を聞き返す。
「だから、鍵。ないよ。」
「はぁ!?ざけんな!んな訳ねぇだろ!」
「んー…うん。正確には『今』『ここ』に無いんだよね。」
無感動だった声と表情にどこか含んだ笑いが隠る。
その面白がっているような千田の様子に、今度は三園の眉が寄った。
「…どういう意味だよ」
地を這うような低い声。
人にバカにされることを最も嫌う三園は、この笑えない状況を作り上げた千田にかなり腹を立てていた。
ここでちゃんとした答えが返ってこなければ、それこそ拳で口を割るくらいのつもりでいた。
次の言葉を聞くまでは。
「三園が寝ている間にね、郵送しちゃった。」
………は?
何を…って、鍵を?
どこに…?
告げられた言葉を理解するまでに数秒を要した。
そしてその数秒は、千田と三園が逆転するのに十分な時間だった。
「…!わっ、」
視界がぐるっと反転する。
ガタン!と机が大きく揺れる音と、丼や箸が床に落ちる音、そして自分の驚いた声が重なる。
「うん、こっちのが眺めとしては良いかも。」
「っ、てめ…!」
見下ろしていたはずの男の向こうに、煌々と灯る電気が見えたー。
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