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「しまった。お風呂困ったね。」 「………」 困るのは風呂だけじゃねぇよ。 内心毒づきながら三園は視線を向けた。 シャツを脱ぎそれを鎖にぶら下げた状態で「んー…」と考え込んでいる様子に若干呆れた。 『本気で好きだからだよ』 抱き締めたまま告げられた言葉。 言葉の抑揚や雰囲気からして、その言葉に嘘はないのだろう。 それが分かると同時に、ふざけんな…そう思っていた気持ちは戸惑いに変わり、何とかこの鎖を外そうと考えた思考は一時停止した。 『…分かったから、離せ』 なるべく穏やかに言えば自由になった体。 押し倒されていた上半身を起こせば『どこもぶつけてない?』と後頭部を撫でられた。 『大丈夫だから、触んな』 その手を思わず払ってしまい『しまった』と感じたが、千田は別に傷付いている様子は無かった。 それから数時間、お互い特に会話をするでもなく。 千田はマイペースに本のページを捲り、三園は無言に耐えかねてテーブルの上に置かれていたチャンネルを手に取り勝手にテレビをつけた。 『………』 『………』 面白くも何ともないバラエティーが流れる中、ふとした瞬間に千田の視線を感じる。 それには気付かない振りをして、画面から視線を外すことはしなかった。 だって、どうしろってんだ。 生まれてこのかた男を恋愛対象に見たことなんかない。 男からコクられたことだってない。 ましてや、こんな状況に陥ったことなんかあるわけない。 とにかく鍵がない今、暴れようが喚こうが無駄に終わるだけで。 打開策を見出だせないまま時間だけが過ぎていく… ビリリッ…! 「!?」 突然に聞こえてきた布地を裂く音に、回想に耽っていた思考が引き戻された。

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