10 / 62

2-6

「……勿体ねぇ」 破られ床に落とされたシャツを持ち上げる。 浴室からはシャワーの音が流れ、キッチリと閉じられない扉からは湯気とシャンプーの匂いが昇っていた。 鎖に絡まるのが鬱陶しいからと、なんの躊躇いもなく破かれたシャツをゴミ箱に投げ入れ、これからのことを考える。 長い鎖や薬、鍵の行方。 計画的に三園を拉致り監禁して、告白して。 『一緒に過ごしたいだけ』 なら、5日間大人しくここで過ごしてりゃ良いのか? 鍵が届けばそれで解放される。 5日くらい我慢できる。 けど、キスされた。 抱き締められた。 『好きだ』とハッキリと言われた。 嘘だとか嫌がらせだとか…そんな考えは消えたが、やっぱりいくら考えても好意を寄せられる覚えがない。 「女に不自由しそうにないのにな…」 見下ろした千田の顔を思いだす。 気にしたことが無かったが、あの整った顔立ちは女受けするに違いない。 それにあの笑顔。 どちらかと言うと無愛想で何を考えているのか分からないくせに、笑うとフワリと表情が緩む。 あのギャップには正直驚かされた。 「…ま、なるようになるか。」 フローリングにごろんと寝転び天井に言葉をぶつける。 色々考えても仕方ない。 元々、物事を深く考えるのは苦手だ。 女じゃなし、力づくでどうこうできるものでもないし何とかなるだろ。 そう結論付けて瞳を閉じる。 ひんやりとした床が肌に心地良い。 大きく息を吐き出せばゆっくりと意識が沈んでいったー。

ともだちにシェアしよう!