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身体を流れる湯が手首に着けた鎖を濡らす。 寛ぐ空間である浴室に不釣り合いな硬質な音が響く。 自分の手首から伸びているそれが三園に繋がっているという事実に、千田の心は満たされていた。 「…三園もシャワー浴び、、」 上半身は裸のままスウェットを履き浴室から出ると、三園は部屋の入り口で横になり眠っていた。 薬の効果が若干残っていたのか物音がしても起きる気配はない。 側にしゃがみこみ額に掛かっていた前髪をソッと払った。 「…………」 すー…すー…と聞こえる寝息と上下する胸。 僅かに開かれた唇。 穏やかな寝顔に無性に触れたくなり、現れた額に口を寄せた。 チュッ… 小さなリップ音と共に身体を離せば水滴が落ちる。 顔に落ちたそれを拭うが、それでも微動だにしない三園にフッと笑いが溢れた。 「無防備…」 薄い唇を指でなぞる。 数時間前、柔らかいが少しかさついたそこにキスをした。 驚きに見開かれた目が次には怒りに変わった、あの一瞬でさえ愛しく感じた。 「…君の中に僕を刻んで」 呟きと共にその柔らかな唇に自分のそれを重ねる。 触れるだけの軽いキス、それだけでもバカみたいに千田の鼓動は早鐘を打った。 やがて音もたてずに立ちあがると、千田は部屋の隅に設置した本棚へと足を向けた。 並んだ本の中から一冊を取り出すとベッドへと腰かける。 そうしてチラッと三園に視線を投げ、手元の本へと戻すとその表紙を愛しげに撫でた。 『わりぃ、大丈夫だったか?』 昨日のことのように思い出される鮮やかな記憶。 千田にとっては、その一冊の本が全ての始まりだったー。

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