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「そのネックレス、三園に似合うね。」
「あ?」
急に掛けられた賛辞の言葉に、冷めたトーストを咀嚼しながら視線を千田へと向ける。
一つしかないテーブルの一角。
そこに頬杖をついて三園を見つめていた千田は、視線が合うとフワリと笑った。
「…食いづらいからジロジロ見んな。」
「気にしないで。スープ飲む?」
「いらねー」
視線をテレビに戻し、残りのパンを口に放り込む。
硬くなってしまったそれは、口の中の水分を全て奪ってしまうため自然と噛むのもゆっくりになってしまう。
だいたい朝は食わねぇってのに…
もそもそと口を動かしていれば、また千田の楽しそうな声。
「コーヒー淹れてあげようか?」
「…飲む」
「ん、直ぐに。」
クスッと笑いながらテーブルを立つ千田の姿に、母親かてめぇは…と心の中でつい突っ込みを入れた。
風呂上がりにテーブルを見れば、置いてあったトーストは捨てられていた。
食べなかったのは自分だが、あっさりとゴミ箱に捨てられていたトーストを見て眉が寄った。
「捨てんなよ、もったいねぇ。」
破れたシャツの上に落とされていたパンを拾い千田を睨む。
要らないとは言ったが、それなら後で食えるように置いておけば良いだけだ。
シャツといいトーストといい、簡単に捨てるその精神が気に入らない。
「また新しいの焼けば良いでしょ?」
「そういう問題じゃねぇ、これが食えなくて死ぬガキだっていんだよ。」
三園のセリフが理解できないのか首を傾げるその態度にため息を一つ落とすと、敢えて大口でパンに齧りついた。
「あ、」
信じられないような目で自分を見る千田にフンッと鼻を鳴らすと、三園はテレビのスイッチを押した。
『今日の運勢は…』と星座が並ぶ画面。
自分の星座をチェックしていれば「三園は優しいね。」と、どこか嬉しそうな声が聞こえた。
「はい、コーヒー。」
コトンと置かれたマグカップ。
それを受け取り口を付ける。
「…うまい。」
「そ?良かった。」
ゴクッと飲み込み上下に動く喉仏に、千田は見惚れた。
フーフーと冷まして一口。
香りを吸い込んではまた一口。
三園がコーヒー好きなのは知っていた。
だからコンビニコーヒーに薬を入れたのだ。
何の疑いもなしに口をつけたあの瞬間の高揚した気分はなんとも言えないものだった。
「…んだよ、さっきから。」
無遠慮に寄越される視線に居心地の悪さを感じたのか、若干声が低くなっている。
そうして僅かに動かされた体に合わせて、三園の裸の胸元で揺れるシルバーネックレスに千田はゆっくりと手を伸ばした。
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