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「好きだな、これ。よく似合ってる」 「…………」 「少し見せて」と、長い指がシルバーネックレスを軽く持ち上げる。 いつも身に付けているそれは、三園が初めて自分で働いた金で買ったものだった。 「…ライオン?」 「ん。知ってるか?このブランド。」 「ごめん、知らない。」 「だろうな。」 「知らないけど、このデザインは好きだな。ロゴも感じが良いし。」 「へぇ。案外分かってんじゃんか、お前。」 答えながら、三園は少し意外に感じていた。 千田がアクセサリーに興味を示すとは思わなかったからだ。 千田のことをよく知っている訳ではないが、この部屋はお洒落なインテリアとは程遠いし、ファッションにも拘っている風にない。 ネックレスどころかピアスだって開けていないようだ。 それなのに三園のネックレスには興味を示す。 『生活できればそれで良い』という空間の中、鎖に繋がれた上半身裸の男二人。 異様としか言い様のない状況で、こうして自分のネックレスを間近に見つめられていることが滑稽に思えた。 「…何がおかしいの?」 「いや、別に。これ俺のお気に入り。」 無意識に笑っていた三園に千田が軽く首を傾げる。 三園も詳しくはないが、このライオンがモチーフにされたシルバーネックレスは一目見たときから欲しくて仕方なかった。 当時まだ高校生だった自分のバイト代なんかたかがしれていたから、手に入れるまでに時間が掛かったけども。 それだけに思い入れもあるアクセサリーだ。 「いつも着けてるよね、それ。」 指を離し体をスッと戻すと千田は片膝を立てて座った。 黒いジーンズに包まれた長い足に頭を預けこちらを見る。 「ずっと気になっていたから、見せてくれてありがとうね。」 フワリと綻ぶその表情は、昨日から何度か見せられる千田特有の笑いかただ。 花が開くような…と言っても、実際花が開くところなんて見たことはないけども。 それでもそんな表現が合う。 …俺が女ならドキドキするんだろうか? どこか気だるげな態度、それでいて三園を見る視線は真っ直ぐで。 「三園?」 思わずまじまじと見つめていれば名前を呼ばれた。 泣き黒子が印象的な垂れ目。 色白だけど引き締まった身体は筋トレでもしているのだろうか。 「…キスしてもいい?」 その言葉にハッとし、目前に迫った顔を睨み付けた。 「良くねぇし、ちけぇ!!」 「ったい!!」 「俺だってイテェよ!バカが!!」 頭突きを食らわせてズキズキと疼く額を押さえる。 同じように額を押さえた千田に呆れる。 初めてまともな会話をしたと思ったらこれだ。 分かった。こいつに必要なのは会話だ。 それも普通の、ダチ同士がする会話。 「俺が好きなら普通に友達から始めやがれ!ダチとしてなら付き合ってやる!!」 「………やだ」 「黙れ!バカやろうが!!」 「三園怖い。」 クスクスと笑う千田に力が抜けその場に寝転ぶ。 「お昼ご飯、何にしようかな。」 「今食ったばっか、いらねー。」 「食べないとまた捨てるよ?」 「……ざけんな」 どこまでもマイペースな千田に三園の口から大きなため息が溢れる。 鎖の硬質な音と楽しそうな笑い声が、暫く室内に響いていた。

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