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5-4
『尚宏居るんでしょ?』
「………………」
「……はぁ…」
女性の声に固まっている三園を他所に、千田は小さく息を吐くとゆっくりと立ち上がった。
そうしてベッドを指差すと「座ってて」と短く伝える。
「……お願いだから、出てこないでね。」
なおも呼び掛けてくる声に額を押さえると、千田はため息を残して部屋を出た。
パタンと閉ざされる扉。
それでも鎖のせいで僅かに開いているそこから聞こえてくる声に、三園は耳を澄ませた。
「…、…………、…」
「……、…………」
ドアチェーンは掛けたまま会話しているのか女性の声は遠く、千田の声も途切れ途切れで上手く聞き取れない。
『帰って』『たかひろ』『今から』
それでも何とか聞き取れた単語に、首を傾げる。
もしかして、お袋さんか?
柔らかだった声はどこか憔悴しているようにも聞こえる。
千田は…特に変わりない、けれど抑揚のない声。
「……出てくるなって、出られるわけねぇだろ。」
上半身裸で、しかも鎖に繋がれて。
よく考えたら人に見られて嬉しい格好ではないことに、今更ながら気付かされる。
やがてドアが閉まる音と、ガチャンと鍵が掛けられる音。
また外の世界が遮断された事実に、何度目か分からないため息が溢れた。
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