32 / 62
5-8
昼間によく寝ていたからか、深夜に目が覚めた。
すぐ側のベッドには規則正しい寝息をたてる千田の姿。
起きたら面倒だから、気づかれないようにソッと立ち上がりカーテンと窓を開けた。
アパートの2階、飛び降りることは可能だ。
これさえなきゃな。
左手にぶら下がる鎖にため息を吐く。
「走りてぇ…」
もう3日。
この広いとは言えない部屋でずっと燻っている。
体を動かすことが好きで、休みの日には気の合う仲間とフットサルやバスケを楽しんでいた。
一日中じっとしているのなんて、病気か法事くらいなもんだ。
監禁されてからも筋トレはしているが、何となく千田の視線が気になって続けることができないでいる。
「……風、気持ちぃな。」
ベランダ越しに入る風が三園の前髪を揺らした。
空を見上げれば街の灯りで星は消され、細くなった月が申し訳程度に光っている。
本来なら夜間のバイトでおっさんたちと汗を流している頃だろう。
…クビ確定だよな。
無断で何日も休むのだ。
せめて断りの電話くらいしてからスマホを取り上げてほしかった…などと、言ってもどうしようもないことを考える。
はぁ…と大きなタメ息を溢し、三園は元凶である男に視線を移した。
すやすやと眠る姿に思わずチッと舌を打つ。
人の迷惑考えず拉致りやがって、普通に犯罪だっつうの。
何だかんだと襲ってきやがるし。
その度にそれなりの反撃はしているが、これが女なら一生ものの傷だ。
あと2日。
この鎖が外れ自由になったら、その時はどうしてやろう。
『大変申し訳ありませんでした』と謝るまで殴ってやるのも良いかもしれない。
膝に頬杖をつきながらそんなことを考えていれば。
「ん…」
小さな呻き声と共に、僅かに千田の体が動いた。
ともだちにシェアしよう!