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昼間によく寝ていたからか、深夜に目が覚めた。 すぐ側のベッドには規則正しい寝息をたてる千田の姿。 起きたら面倒だから、気づかれないようにソッと立ち上がりカーテンと窓を開けた。 アパートの2階、飛び降りることは可能だ。 これさえなきゃな。 左手にぶら下がる鎖にため息を吐く。 「走りてぇ…」 もう3日。 この広いとは言えない部屋でずっと燻っている。 体を動かすことが好きで、休みの日には気の合う仲間とフットサルやバスケを楽しんでいた。 一日中じっとしているのなんて、病気か法事くらいなもんだ。 監禁されてからも筋トレはしているが、何となく千田の視線が気になって続けることができないでいる。 「……風、気持ちぃな。」 ベランダ越しに入る風が三園の前髪を揺らした。 空を見上げれば街の灯りで星は消され、細くなった月が申し訳程度に光っている。 本来なら夜間のバイトでおっさんたちと汗を流している頃だろう。 …クビ確定だよな。 無断で何日も休むのだ。 せめて断りの電話くらいしてからスマホを取り上げてほしかった…などと、言ってもどうしようもないことを考える。 はぁ…と大きなタメ息を溢し、三園は元凶である男に視線を移した。 すやすやと眠る姿に思わずチッと舌を打つ。 人の迷惑考えず拉致りやがって、普通に犯罪だっつうの。 何だかんだと襲ってきやがるし。 その度にそれなりの反撃はしているが、これが女なら一生ものの傷だ。 あと2日。 この鎖が外れ自由になったら、その時はどうしてやろう。 『大変申し訳ありませんでした』と謝るまで殴ってやるのも良いかもしれない。 膝に頬杖をつきながらそんなことを考えていれば。 「ん…」 小さな呻き声と共に、僅かに千田の体が動いた。

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