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起こしたか?
こちらの気配を感じて目覚めたかと一瞬身構える。
そのままじっと見つめていれば、それまで穏やかだった千田の呼吸が苦し気なものへと変わった。
おいおい、なんだよ急に…
悪夢でも見てんのか?
「…めん……」
「あ?」
小さな声。
寝言であろうその声に思わず返事をしてしまい、咄嗟に口を押さえた。
「ごめん…たかひろ…」
「………………」
魘されながら紡がれる謝罪の言葉。
その絞り出すような声に三園は眉を寄せた。
たかひろ…その名前は昼間に聞いたばかりだ。
千田の母親が発した名前。
『尚宏 』と『たかひろ』
名前からして兄弟だろうか?
「う、あ゛…っ」
「………………」
繰り返される苦し気な声と、その度に揺れる千田の体。
こんなやつ別にどうでも良いと思っているのに、その様子があまりにも苦し気で。
悲痛な声で繰り返される謝罪に、こちらまで胸が苦しくなるようだ。
起こしてやった方が良いのか?
どうでも良いやつだが、苦しんでいるのを放っておくのも悪い気もする。
「…おい、千田」
「………っ、は…」
「おい!!」
「…っ!?」
薄暗い部屋に響く自分の声。
それに反応するかのように、千田の体がビクッと揺れた。
同時に止まる呻き声。
「………………」
やがてゆっくりと体を起こすと千田は片手で顔を覆った。三園の存在にはまだ気付いていないのだろう。
何考えてるのか分からない飄々とした男だが、今はどこか頼り無げで。
「……水、飲むか?」
自分のお人好しさに呆れつつ、三園は口を開いたー。
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