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ザクザクザクザク…と血液が流れる音が大きく聞こえる。 これ程飲んだのは初めてかもしれない。 こんなに楽しく飲んだのも… いつだったか、貴宏(たかひろ)と夜明けまで騒いだ…あの日以来だろうか。 もう何年も前の思い出に、喉が潰れたように息が詰まった。 バカみたいに笑って飲んだあの日の記憶は、月日と共にその鮮明さを失っていった。 『尚宏は酒強いな、俺もそうなれるかな』 そう言った貴宏の声は憶えているのに、その表情は笑っていただろうか。 …ダメだ、考えるな。 「…………………」 ゆっくりと瞳を閉じ、意識を他に向けようとする。 けれども向けようとすればするほど、心とは裏腹に脳が過去を呼び覚まし、それに比例して胸が苦しくなっていく。 今の自分を見たら、貴宏は何と言うだろう… 笑うだろうか、それとも呆れるのだろうかー。 「…おい、寝んな!」 「いっ!」 ジャラッ!と硬質な音が響き、過去に捕らわれ沈んでいた意識が浮上した。 胸に残る痛み。 決して物理的な理由だけではない胸の痛みを押さえ、視線を動かす。 床に流れる鎖を弛く握った三園と目が合い、思わず苦笑する。 「…起こすならもっと優しく、三園」 「あ?寝る方が悪い。」 「寝てた訳じゃないよ…でも助かった。」 「助かった?」 「うん」 胸を擦りながら半身を起こす。 全身を巡るアルコールが頭をフラフラさせる。 真っ直ぐ起きていられない頭を片膝に乗せ、フゥ…と大きく息を吐き出せばいくぶんか楽になったような気がした。 「で、負けた俺はどうしたらいい…?」 気だるげに問いかければどこか考える素振りを見せる。 やがてゆっくりと顔を上げた三園と視線が絡んだ。

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