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「…僕が落とした本を三園が拾ってくれたんだよ。」 「は?」 今だ思い出そうと頭を抱えている姿にゆっくりと告げれば、三園はパッと顔を上げた。 「正しくは、君が僕にぶつかって落としたんだけどね。でもその時、三園が誤ってその本を踏んでしまって…すごく慌てて拾ってくれた。」 「………あ、」 「思い出した?」 ニコニコと問われ、三園は「お、おぉ…」と頷いた。 『わりぃ、大丈夫だったか?』 『…どうも』 『いや、悪いのこっちだし…って、ページ折れてんじゃねぇか。うわ~、破れてねぇと良いけど…』 謝りながらオロオロと本のカバーを直す男の姿をまじまじと見つめた。 拾ったのならさっさと渡せば良いのに… 折れたページを手の平で挟み少しでも綺麗にしようとする。 正直、彼が何をそれほど気にしているのかよく分からなかった。 『別に良いよ。それもう読み終わってるから。』 『そういう問題じゃねぇよ。ほんと、ごめんな。』 謝りながら差し出されるそれに手を伸ばす。 『破れてたら弁償すっから』とシュンとしている男が何だか可笑しくて、自然と口角が上がった。 『……どこも破れてないみたいだし、気にしないで。』 『そっか、良かった。』 受け取った本をパラパラ…と捲り千田がそう言えば、男は申し訳なさそうな表情からホッとしたように笑った。 慌てていたかと思えば不安そうな顔、そして安堵のため息。 そのくるくると変わる表情から、なぜか目が離せなかった。 『じゃあ』とその場を去っていく男の笑顔に心がざわついた。 それが三園との出会いだった。 その後、彼が自分と同じ講義をとっていることを知り、何となく目で追うようになった。 意識してみれば目立つタイプ。 それが証拠に、人が集まっている中心には大抵三園がいた。 いつも友人達と楽しそうに会話をし、大きな声で笑っている…自分とは真逆のタイプ。 人との付き合いは疎ましいし、騒がしいのも苦手だが、三園の笑い声は耳に心地よく聞こえた。 「三園にとっては何てことの無い日常だったろうけどね。」 『あの日』を境にモノクロになってしまった自分の世界。 なのに、三園との出会いがそれを変えた。 彼のことだけは輝いて見えた。 「でも僕にとっては、世界が変わる大きなきっかけだったんだよ。」 千田の言葉に、三園の瞳が僅かに揺れた。

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