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「てめ、ふざけんな!!」 顔を背けてキスから逃れる。 睨み付ければ、それすら楽しむかのように微笑む千田と目が合った。 「ふざけてないよ、本気。今からもっと深いのするけど、噛んだら駄目だよ?噛んだら、同じだけ僕も噛み返すから。」 「んっ…!」 不穏なことを口にされ、どう言い返すか悩む暇もなく。 再び熱もつ唇が重なってきた。 口内にぬるっとしたものが侵入してくる。 押し返すよりも先に、奥深くまで差し込まれた舌が口蓋をなぞる。 同時に、口の中に広がる鉄の味に思わず眉根を寄せた。 「な、やめろ…って…っ、」 「ん…ジッとして、怪我するよ」 唇が触れ合う距離で囁かれる。 自分よりも上背がある男に本気で押さえつけられていては、暴れようにも限界がある。 クチュッ…と互いの口から漏れる水音。 味わうかのように深く舌が差し込まれ、舌先が歯列を柔らかくなぞった。 押し返そうとすれば戯れるように絡み付き、軽く吸われた。 「しっかり僕を刻んで(記憶して)ね、三園…」 「嫌、だ…んんっ…」 覆い被さり執拗に重なる唇に三園の声は飲み込まれた。 何度も言われた『刻む』とはそういうことか。 キスの合間に繰り返された言葉の意味をやっと理解する。 どちらのものか分からない唾液を無意識に飲み込めば、さらに深くなる口付け。 それなのに千田の瞳は三園の表情を窺うように開かれたままで、至近距離にあるその眼差しに胸がざわめいた。 なんで、そんな目で見るんだよ… どこか切なげにも感じられる瞳から逃れるように、三園は瞼を閉じた。

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