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鼻を擽る甘い香り。 ゆっくりと瞼を開けば、視線の先には空の布団。 「……みその?」 名前を呼ぶ自分の声が掠れていて、テーブルに置かれたミネラルウォーターのペットボトルに手を伸ばした。 先に三園が飲んだのか、半分まで減っているそれを一気に胃へと流し込んだ。 昨日は呑みすぎたな。 三園の挑発に乗って、まんまと負けて… あぁ、でも美味しい思いできたから良しかな。 三園の唇の柔らかさと熱を思いだし、下半身がドクッと脈打った。 拉致って己を刻み込みたいと願うほど好きな相手の肌に触れた。 寝落ちた三園の無防備な姿に、ムラムラしなかったかというと嘘になる。 襲わなかった自分を褒めてやりたい。 ガラッ… 「チッ、起きてやがる…」 「今舌打ちしたでしょ。」 キッチンへと続く扉が無造作に開かれ、皿とコップを手に三園が入ってきた。 千田を認識すると同時に打たれた舌打ちに苦笑いすると、「ずっと寝てろ、てめぇは」と眉間にシワを寄せられた。 「なんか良い匂い…ホットケーキ?」 三園の手の中にある物を見て、千田は首を傾げた。 薄っぺらで焦げてはいるがそれは確かにホットケーキで、三園がそれを作ったということが少し意外だった。 「なんだよ。」 「いや。三園、料理できないって言ってたから。ちょっとビックリした。」 テーブルの上に置かれた皿をまじまじと見つめる。 形は悪いが匂いは良い。 「これしか作れねぇんだよ。お前んち、なんでカップ麺がないんだよ。」 「食べないからね、僕」 「置いとけよ、おかげで作る羽目になったじゃねぇか。」 ブツブツと文句を言いながら、箸でバターを塗り広げホットケーキを摘まむ。 大きく一口を齧ると、三園はそのまま無言で食べ進めていった。 「…ね、僕のは?」 「あ?あるわけねぇだろ。食いたきゃ自分で作れよ。」 チラッと視線だけ寄越し牛乳を飲み干す。 まだ口の中に残っているのか、モグモグと咀嚼する姿がまるで小動物のようだ。 「三園が作ったのが食べたかったんだけどね。まぁいいや、お腹すいたし僕も何か作ろう。」 ベッドから下りキッチンへ向かおうとすると、背後から声がかかった。 「オムライス」 「…まだ食べるの?」 「こんだけで足りるかよ。オムライス食いてぇ。」 ここに連れてきて初めて、三園から料理のリクエストが出た。 毎食、千田が作ったものをほぼ無言で食べていただけに、それが妙に新鮮に感じられた。 「了解、オムライスね。ちゃんとケチャップで文字も書いてあげる。」 クスクスと笑えば、「うっせぇな、さっさと作れ」と三園はフンッと鼻を鳴らした。

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