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キッチンからチキンライスを炒める音と香りが流れてくる。 残りのホットケーキを頬張り、ガスコンロの前に立つ千田を見つめた。 「三園、卵はトロッと派?包む派?」 「包む。少し焦げたくらいが旨い。」 「あぁ、それはちょっと分かる。」 料理をしているときの千田は楽しそうで、手際良くオムライスを作る姿は昨夜自分を押さえつけた男とは思えない。 こうしていると普通に友人宅に来ているのと変わりないのに、それは千田の望む形ではないという。 『好きだ』と言われたが、『好きになってくれ』とは言われていない。 それに『記憶になりたい』という昨夜の言葉からは、『側に居たい』という想いが伝わってこなかった。 つまり千田は『恋人』という形すら望んではいないのだろう。 では何だ。 明日ここを出ていったら、千田との関係はどうなるのだろう。 何事もなかったように、普段の生活に戻るのだろうか。 同じ学部の生徒として。 「はい、出来たよ。」 「さんきゅ…って、これ何だ?」 思考を遮るようにカタンとテーブルに置かれたオムライスの皿。 食欲をそそる香りと立ち上る湯気、少し焦がした卵にはケチャップで何かの動物が描かれていた。 「リス。三園みたいでしょ?」 「は?どこが?似てねぇし、リスにも見えねぇ。」 思わず吹き出せば「渾身の作なのに」と拗ねたような声が聞こえた。 「うん、うまい」 「そう?良かった。」 相変わらず千田の作る料理は美味しく、それを正直に言葉にすれば花開くようにフワリと笑う。 その笑いかたは千田の見せる表情の中で一番柔らかく、悪くないと思えた。 「三園はさ、ホットケーキが好きなの?」 「なんだよ急に。」 夕食後。 することもなくテレビをボーッと眺めている三園の側で、千田も同じように寛いでいた時だった。 画面を見つめたまま投げ掛けられた質問に、千田へ視線を移した。 「ホットケーキなら作れるって言うから。好きなのかなって。」 「あぁ…いや、別にそれほど好きな訳じゃねぇよ。」 「へぇ。じゃあどうして?」 今度は千田が三園へと視線を移す。 何となく視線を合わせるのが躊躇われ、三園はまた画面へと向き直った。 「…ガキのころ、あれが主食だったことがあったんだよ。」 「ホットケーキが?」 「ん」 思わぬ返答に千田が体を起こす。 話の続きを待つようにジッと見つめてくるのに折れ、三園は自分の幼少期について話し始めた。

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