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「三園」 静寂の中ふいに聞こえてきた千田の声に、三園の体がビクッと跳ねた。 振り返れば、頭にタオルを被ったままの千田が立っていた。 三園の手の中にある本を見つめていた視線が、三園本人へと移る。 「…シャワーどうぞ」 「お、おう」 「「………………」」 何となく気まずい空気が流れる。 そう感じているのは三園だけかもしれないが。 だって、この本が捨てられずにここにある理由って…そういうことだろ? 自意識過剰な考えだと思う。 けれども他の本とは明らかに違う扱いをしているのは、これが三園と繋がったきっかけだからだろう。 自分の思考にやや呆れながらも、三園はそう確信していた。 ヂャラ… 小さな鎖の音と共に、千田がゆっくりと近づく。 静かな動作に動けずにいると、千田の白い手が本に掛かった。 「…………………」 無言のまま本棚にソッと返す姿を、三園もまた無言で見つめた。 何も言わねぇんだな… 千田が口を開こうとしないのを見つめ、三園もそれには触れないでおこうと視線を外したその時。 「…ブハッ!」 「何?」 千田のに気付いた三園は思わず吹き出した。 振り向いた千田が眉を潜める。 それが益々可笑しくて、三園は声をあげて笑った。 「だ、だって…ふははは!お前、耳真っ赤!」 「ッ!」 指摘された千田の顔が一気に紅潮する。 ヒーヒーと腹を抱えて笑う三園から顔を背け、「笑いすぎだよ」と拗ねたように呟く千田の肩を叩く。 「お前、拐うし繋ぐし襲うし、めちゃくちゃなくせに…ふはっ、何こんなことで照れてんだよ!」 腹筋に力を入れ、込み上げてくる笑いを抑えようと努める。 平然と本を戻していたが、実はめちゃくちゃ照れていたのか。 『好きだよ』と真顔で告げたり、濃厚なキスを仕掛けてくる男が、こんなことで顔を赤くさせるとは思わなかった。 やべえ、ギャップすぎて笑いが止まらねぇ。 いつもは飄々とした態度で、何を考えているのか分からない千田が見せた意外な一面。 見られまいとタオルで顔を隠す姿が新たな笑いを誘う。 変態で常識なくて究極にマイペース野郎だけど。 案外可愛いところもあるのだと、三園は涙を拭った。

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