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「三園、おかわり食べちゃって。冷めたら美味しくないよ」
「お、おう…」
投函された音に固まったのは一瞬で、千田はそう言うとゆっくりと玄関へと向かった。
カタン…と郵便受けが開く音が静かな室内に響く。
続いて、取り出した小包が破られる音。
受け取った皿を机に置き、三園は瞬きも忘れて玄関に立つ千田を見つめていた。
鍵、だよな。
破られた小包が千田の足元に落ち、鎖の上に重なる。それを煩わしそうに軽く蹴飛ばす千田の動きがまるでスローモーションのように見える。
待ち望んだ時が来たのだと、心臓がドクドクと音を立てた。
これでやっと自由になれる。
窮屈な空間から抜け出せる。
やっと、やっと…
「三園、食べた?」
「ほえ?」
振り向いた千田の言葉。
僅かに緊張していた三園の口から咄嗟に出た返事に、千田の目が可笑しそうに歪められた。
「食べたら、これ。」
「!!」
チャリ…
そう言って微笑む千田の顔の前で揺らされる鍵が小さな音を立てる。
「冷めたら美味しくないよ?」
「…わかってるよ」
向かい側に座り直し、机の上に置かれる小さな鍵。
それと2つのスマホ。
まるで何でもない物のように無造作に置かれたそれら。
「………………」
机に頬杖をついて無言で見つめてくる千田の瞳から顔を逸らし、三園はスプーンを口に運んだ。
千田が何を考えてるのか分からない。
ただ見つめてくる瞳は真っ直ぐで。
余裕で入ると思っていたおかわりが、やけに多く感じた。
やがて。
カチャ…カチ、カチャン!
三園の左手首から。
カチャカチャ、カチン!
千田の右手首から。
二人を繋いでいた一本の鎖がその役目を果たし…床に落ちた。
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